大学の日本語上級クラス

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

今年、UCを卒業するニナは大学で上級の日本語クラスを取っていた。どんな授業内容か、課題にはどのような日本の小説が出るのか、他の学生はどれくらいのレベルなのか、彼女から聞くだけでも興味津々だったが、先日、カリフォルニアの某大学の日本語上級者クラスを見学する機会があった。ただ見学するだけではなく、日本人の友人と私とで参加し、質問を受けたり、経験談を話したりするという役目も担っていた。

そのクラスに出席していた学生は9人。見た目には実に多様で、白人系、アフリカ系、アジア系、アジア系とのミックス、また学年もフレッシュマンからシニアまでと幅があった。

そして、彼らの自己紹介から「日本語のネイティブ、または準ネイティブ」であることがすぐに分かった。「なぜこのクラスを取ったのか」という質問には、「日本語を使う機会があまりないので、このクラスで使いたい」「日本語学校に通ったことがなく、日本語は家庭で身に付けたので敬語を習いたい」「話すことは問題ないが、読み書きを勉強したい」などの回答。つまり、彼らのなかには「親の両方、もしくは片方が日本出身なので家庭では日本語を話すけれど、正式に日本語を習ったことがない」という学生が多いようだった。先生が配布したプリントは漢字を多用した日本語で書かれていたので、「日本語が読めない」わけでは決してないのだろうが、彼らは積極的に「敬語を習いたい」「読み書きを上達させたい」とブラッシュアップを目指していた。

この時、私は自身が渡米直後に経験したことを思い出した。当時、カリフォルニアの日本語情報誌で編集の仕事を始めた私は、日本語が流暢なアメリカ人弁護士が執筆するコラムを担当していた。その弁護士は母親が日本人で、日本語にまったくアクセントがなかった。担当し始めの頃、私が電話で「3行目のこの表現をこのように変えたいのですが」と相談すると、彼女はなんと「私、日本語がまったく読めないので、私の英語の原稿を翻訳しているアシスタントと話して」と言った。私はその言葉に「あんなに日本語が流暢なのに読めない? 一体どういうこと?」と頭の中が疑問符だらけになった。その後、多様なバックグラウンドの人と知り合ってきた今なら理解できるが、その時「言葉が話せるなら読み書きもできる」わけではない、ということを初めて知った。

「親には感謝しかない」

私は学生たちが、ここまで日本語を続けられたモチベーションについて質問した。幼い頃は日本語を話していたのに、日本語学校や補修校に行く機会がないまま英語中心の生活になり、やがて日本語を話さなくなるという子どもたちのケースを数多く見てきたからだ。するとある学生は次のように答えた。「モチベーションは日本の文化が好きだということ。自分は日本のお笑いが大好きで、日本語が分かるからこそそれが楽しめる。自分は日本語学校には行ったことがなく、家で日本人の母親から日本語を学んだ。父と話す時は英語、母とは日本語。でも母は強制するわけではなく『難しければ英語でも大丈夫』と言ってくれた。だから無理せずに自分のペースで日本語を上達させることができた」。

別の学生は、日本人の母親が日本語学校の教師だったと話してくれた。「母が頑張って日本語を教えてくれた。日本語学校にも通っていた。当時は嫌だったけれど、今は母に対して感謝の気持ちしかない。もし子どもの頃、日本語を諦めてしまって後で習いたいと思ったとしても、大きくなってからでは今のような日本語力を身に付けることは無理だったと思う」。また、ある学生は日本の親戚に会いに行きたいという気持ちで、高校生の時にアルバイトで稼いだお金で一人で日本に行ったのだそうだ。

彼らの話を聞いて、同じくバイリンガルの子どもたちを育てた私は感情移入して胸が熱くなった。親が諦めなければ子どもはそれに応えてくれるし、日本語の基礎が身に付いていれば大学でも自分から日本語をさらに学びたいと思ってくれる。言語は財産だということを、彼らが身に染みて感じているのが伝わってきて嬉しかった。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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