スイーツの甘い香りのもととして知られるバニラ豆の価格が、同じ重さの銀を上回るほどに高騰しており、スパイス大手マコーミックなどが対応策を探している。
■インドネシアに期待
ロイター通信によると、ラン科のバニラはサフランに次いで世界で2番目に高価なスパイスで、卸売価格は5年足らずで500%も上昇している。天然の原料に対する世界的な需要の高まりも一因だが、供給問題もあり、世界のバニラ生産の約80%を占めるマダガスカルでは近年、サイクロンや干ばつ、盗難などが相次ぎ、収穫量や品質が大幅に低下している。
マダガスカル産バニラ豆の価格は現在1キロ=520ドル。2017年3月のサイクロン襲来後に記録した635ドルほどではないが、15年初頭の87.50ドルに比べると大きく高騰。「ハーゲンダッツ」などのブランドで天然バニラ使用のアイスクリームを販売するネスレは、17年に米国のアイスクリーム製品価格を引き上げ、米国以外でハーゲンダッツを販売するゼネラル・ミルズも値上げを余儀なくされてい る。
小売店、レストラン、加工食品会社などにバニラやバニラエッセンスを販売するスパイス最大手マコーミックも、コストの上昇分を買い手に転嫁しているが、バニラ不足は見過ごせない危険因子になっており、インドネシア・パプア州(ニューギニア島の西側)北岸で代替供給源の開拓を急いでいる。
しかし、マダガスカルの年間生産量約2000トンに対し、インドネシアは約100トンと規模が小さい。過去に他社が新しい生産地開発を試みたものの失敗した例もある。ユニリーバ傘下ベン&ジェリーは、ウガンダで同様のプロジェクトに多額を投じたが、政府が認定した収穫日の前に中国など東側のバイヤーが「船を満載にできるほど」(同社の供給網責任者)多額の現金を持って押し寄せ、買い占めてしまった。バニラ泥棒が多発するウガンダでは、農家が警戒のため畑で寝ていても殺されたり襲われたりしているほか、マダガスカルでは逆に農家が泥棒を捕まえて殴り殺した例もある。
■手のかかる作物
そもそもバニラが高価なのは、育てるのに手間がかかるためだ。開花して受粉できるまでに3~4年かかり、その後は年に数日、夜明け前の4時間だけという限られた時間内に手作業で受粉をしなければならない。
開花から販売までの生産サイクルは平均16~18カ月。600個の花からわずか約1キロの乾燥バニラ豆しか取れず、支えと日陰を与えてくれる小さな木につるが絡まった時だけ育ち、しかも赤道近くで栽培する必要がある。この道30年以上というマダガスカルのバニラ輸出業者は「バイヤーが別の生産地を探しているという話を聞くたびに脅威を感じるが、あまり心配はしていない。インドネシアでマダガスカルほど良いバニラはできないからだ」と話している。
それでも生産を短期間で拡大したいマコーミックは、パプアの農村向け栽培研修プログラムを拡大している。また、消費者が慣れ親しんだ「マダガスカル級」の良質バニラを作るため、現地の伝統的な土壌、水管理の方法を変えたりもしている。
同社は、17年のサイクロンでバニラ作物の約30%が破壊されたマダガスカルの市場再建を支援した民間団体CAREとも協議中で、CAREはインドネシアでも女性を中心とした生産者向けに生産や管理、金融知識に関する研修を提供する共同組合を立ち上げている。 (U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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