シリーズアメリカ再発見㊸
アートで再生! デトロイト

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

 

デトロイトのダウンタウン Photo © Mirei Sato

デトロイトのダウンタウン
Photo © Mirei Sato

 「Detroit is coming back」。デトロイトは復活するよ。

 4年前にこの街を訪れたとき、会う人は皆、そう言っていた。2012年のことだ。

 リーマン・ショックの傷跡は、旅人の私の目にもまだ痛いぐらい残っていた。つぶれた工場からは換金できそうなものがすべて持ち去られ、ガラスは高額で売れるからだろう、窓がすべて割られていた。

 家主をなくした住宅は、ベニヤ板を打ちつけられて傾き始めていた。陽の当たる角地は、野ざらしで草ボウボウ。そこを野良犬が走り回っていた。

 夜になると、そんな廃屋を、肝試し半分にフォトグラファーたちが徘徊する、という噂だった。ローマのコロッセオやアテネのパルテノン神殿に行かなくたっていい。文明の果て、朽ちた栄華、美しい廃墟が、すぐ目の前にあった。

 あれから4年。また、デトロイトに来た。「Detroit has come back」。デトロイトは復活してきているよ。少々の進行形で、会う人は皆また、そう言う。

 実はその間に、デトロイト市は破産している。財政はその前からとっくに破綻していたのだろうが、2013年に正式に宣告した。「Detroit is for Sale」(デトロイト売り出し中)。そんなヘッドラインが、ニュースを埋めた。

 でも私はあまり心配しなかった。外界からはうらぶれて見える光景も、そこで暮らす人にとっては異常でもなんでもない。日常の一部なのだということを、最初にデトロイトに行ったとき教わったからだ。デトロイトの闇は深い。けれど闇はそのままで、輝いていた。

 「廃屋はいつか新しくなり、そのうちまた空き地になる。いつだってその繰り返しなんだから」——。ここの人たちは、そう簡単に生まれた街を見捨てない。長いスパンでものを見ている。「いろんなスキャンダルがあるけどね、そのあと必ずよくなる。その繰り返しなのよ」

 アメリカの「都市」は、死んだように見えて、決して死なないものだ。都市も、デトロイトも、死ぬには価値がありすぎる。

デトロイト・ダウンタウンの中心部。地元の人は、愛情を込めて「The D」と呼ぶ Photo © Mirei Sato

デトロイト・ダウンタウンの中心部。地元の人は、愛情を込めて「The D」と呼ぶ
Photo © Mirei Sato

 今年の初夏に訪れたデトロイトの中心部は、ちょっとほこりっぽかった。建設ブームなのだ。空にはクレーン。道路には「工事中につき迂回」を示すオレンジ・コーンが並んでいた。

 「ザ・ディストリクト・デトロイト」(The District Detroit)という巨大なプロジェクトが、街並みをどんどん変えようとしている。ダウンタウンの50区画をひとつの商業施設にしてしまう。中心は、来年秋に完成予定のNHL「デトロイト・レッドウィングス」のアリーナだ。まわりを、ショッピング、エンターテインメント、オフィスなどの施設でかためる。NFL「ライオンズ」とMLB「タイガース」の、既存のスタジアムもつながる。

 新アリーナは、「リトル・シーザーズ・アリーナ」と命名される。レッドウィングスとタイガースのオーナーで、ファストフード・ピザ・チェーン「Little Caesars」の創業者マイク・イリッチが、再開発事業を仕切っている。

 イリッチと、ダン・ギルバート。デトロイト滞在中、この2人の名前を聞かない日はなかった。ギルバートは、リーマン・ショックのあとに台頭した抵当貸付企業「Quicken Loans」の創業者で、NBAクリーブランド・キャバリアーズのオーナーだ。

 2人ともデトロイト出身で、本社拠点をデトロイトに置く。活況のダウンタウンを歩けば、「右はイリッチの所有、左はギルバートが買収した」という具合で、2人の手がついていない不動産を探すほうが難しい。デトロイトの美化再生のものすごい功労者なわけだが、ここまで独占すると一体どんな影響が生まれるのだろう…と、よそ者はつい考えてしまう。

 ひとつ言えるのは、デトロイトに、外からのパターナリスティックで押しつけがましい同情は不要、ということだ。ある人は、デトロイトを「タマネギのような街」と表現する。一見タフで粗野に見えるが、1枚ずつ皮をむいていかないとわからない、デリケートな誇りと人情に満ちている。

 最近のデトロイトには、独立精神旺盛な若い起業家が集まる。ストリートアートの力で、草の根の再生も進む。そんなデトロイトの「今」を感じられる場所を紹介する。

デトロイトのダウンタウンには気品あるアールデコの建築が多い。街の美しさに目を向けてほしいとの願いから始まったアートプロジェクト「Man in the City」。ビルの屋上などあちこちに、オレンジ色の人形があるのを見つけて歩くのは楽しい Photo © Mirei Sato

デトロイトのダウンタウンには気品あるアールデコの建築が多い。街の美しさに目を向けてほしいとの願いから始まったアートプロジェクト「Man in the City」。ビルの屋上などあちこちに、オレンジ色の人形があるのを見つけて歩くのは楽しい
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