裏ななつ星紀行〜古代編
万葉ゆかりの地を訪ねて 葛城・宇陀の旅
第一話

文/片山恭一(Text by Kyoichi Katayama)
写真/小平尚典(Photos by Naonori Kohira)

小説家・片山恭一と写真家・小平尚典が、“真の贅沢ってなんだろう?”と格安ローカル列車の旅にでた。

 

Photo © Naonori Kohira

Photo © Naonori Kohira

 いつか来たいと思っていた万葉ゆかりの地。『裏ななつ星』で訪れることになるとは、やや意外である。このプロジェクトには二つ、または三つの必須条件がある。というか、ぼくたちのあいだでは暗黙の了解になっている。それは美味しい食べ物と温泉。ついでに美味しいお酒。この三つが絶妙なハーモニーを奏でることになっているのだ。もちろんメイン・テーマはスローなローカルの旅。でも温泉に入り、美味しいものを食べて、美味しいお酒を飲まなければ、画竜点睛を欠く。個人的には、目玉を描き込むために旅に出ている節もある。

 では新幹線か何かで、ピーッとどこかの温泉地に行き、料理を食べて酒を飲んで、一泊して帰ってくればいいではないか、という話にはならない。やはり普通列車でのろのろ、途中で降りたり寄り道したり、いろんな人やものと出会い、驚いたり困ったり憂えたりしながら、今日も一日終わりましたね、お疲れさま。お風呂に入って、まずは冷たいビールで乾杯、それからあれを食べよう、これを飲もう……などと夕暮れに向かう車窓の風景を眺めながら愚考する、なんとも心躍るひととき。この楽しさこそが『裏ななつ星』の醍醐味、「裏」でなければわからない味わいである。

 ところで今回の旅程、万葉ゆかりの地をめぐる旅では、そうした二つないし三つの必須条件を満たせるかどうかが、ちょっと微妙な塩梅になっている。まず湯煙の匂いが心なしか希薄である。いや、なくはない。温泉はあるらしい。お酒はどんなものだって、ぼくたちには美味しいからノー・プロブレム。しかし美味しい食べ物……探せばあるとは思うのだが。ほら、よく耳にするじゃないですか、「奈良にうまいものなし」とか。かつては「青丹よし 奈良の都は 咲く花の にほふがごとく 今盛りなり」なんて言ったものらしいが、それは千年以上も昔の話で、目下のところは「奈良→うまいものがない」のほうが俄然気になる。真相はどうなのだろう。どうやら志賀直哉の随筆の一節を、後世の人が誤解(曲解?)したものらしいが、ご当地の人たちもやや謙遜気味に口にするものだから、旅人としてはちょっと心配になる。これが大阪府民なら、「なにアホなことゆうてまんねん。うまいもん? ぎょうさんあるでえ。喰って、倒れて、いてこましたろか!」と、ほとんど意味不明、そもそも日本語になってない、ということになるのであるが、奈良県民は慎ましやかなのだ。
 

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