Library Street
Collective Gallery
www.LSCGallery.com
ダウンタウンのど真ん中にあるアートギャラリー。隣接する10階建ての駐車場ビル「Z Garage」と、そのすき間にある路地「The Belt」も使って、グラフィティやミューラル(壁画)を展開する。
経営者のマット・イートンさんは、デトロイトのクリエイティブなコミュニティーでは知らない人がいない。パブリックアートで街を再生する運動のリーダーだ。
1990年代に、デトロイト市内のアートギャラリーは次々に閉鎖。「若くてエネルギーのあるアーティストのための場所がほしい」。そう願ってイートンさんが2012年にここを開いたときは、警察が見回らないので周辺は犯罪が多かった。今は企業の支援もあり、多くのギャラリーが戻ってきた。
「アートを大切にしない社会は破綻する」とイートンさんは言う。「デトロイトを含むミシガン州の南東部は、アメリカンドリームの代名詞。世界のほかの都市が千年かけて達成した以上のことを、デトロイトは200年弱で成し遂げた。ミュージシャンや、自動車産業を支えた技術者たちも、みなアーティストだった」
今、ダウンタウンの一番目立つビルの外壁には、イートンさんがプロデュースした、シェパード・フェアリーとダビデ&ラウル・ペレ兄弟のミューラルが並んでそびえる。クラシックで重い色合いのデトロイトのダウンタウンが、色彩を取り戻した。
Dequindre Cut
Greenway
www.DetroitRiverFront.org
デトロイト・リバーの河畔「リバーフロント」から、市民の台所「イースタン・マーケット」までを結ぶ、全長20マイルの遊歩道「デクインダー・カット」。かつては鉄道の線路や屠殺場があった場所。10年以上放置され、人が寄りつかない場所になっていたのを、整備した。今年4月に延伸工事が終了したばかり。
道の左右に、途切れることなくグラフィティやミューラルが続く。ストリートアートが好きな人なら、興奮ものの場所だ。
さびれていた時期に多くのグラフィティが描かれた。いわば「違法の落書き」だったものを、再整備する際に消し去るのではなく、残して活かす「英断」をくだしたところがデトロイトらしい。
廃屋や壁、石段までがキャンバスになり、フェンスやベンチ、街灯もストリートギャラリーを演出する。今はアーティストを公募して、壁があくと許可を与えてミューラルを描かせている。
Grand River
Creative Corridor
www.GRCCDetroit.com
ダウンタウンの東側、グランドリバー・アベニュー沿いのネイバーフッドを、100以上のミューラルが彩る。
このあたりは、かつてデトロイトとミシガン州第2の都市グランドラピッズを結ぶ幹線道路として栄えた。すっかりさびれてしまったのをアートで復興させようと、2012年に始まった再開発事業の一環だ。
空き家になったビルを修繕して、アーティストや起業家のワークスペース、カフェなどに、低家賃で貸し出すプログラムも行われている。
Russell Industrial
Center
russellindustrialcenter.com
外から見たら廃墟である。実際、長いこと廃墟だった。それが、中にはいると驚く。ファッションデザイナー、アーティスト、スモールビジネスのオーナーが入居して、いきいきと創作活動をしている。
廊下は薄暗く、まだ割れたままのガラスも多い。空き家時代にしみついた臭いは残るが、水も電気もちゃんと通っている。これぞ、再生デトロイト!
20世紀初頭に、デトロイトを代表する建築家アルバート・カーンがつくった建物で、自動車部品メーカー「Murray」が工場にしていた。産業の衰退とともに空き家になった。
建物の外壁には、中西部で最大のミューラル「Impossible Dream」が描かれており、フリーウェー上からもよく見える。
SHINOLA Detroit
www.shinola.com
流行に敏感な人の間では、デトロイトといえば「シャイノーラ」。パリでもロンドンでも東京でも、自動車なんかより、ここの時計の話題で盛り上がる。
2011年創業。シンプルで上品で、精巧なつくりの腕時計たち。自転車、バッグや手帳といった革製品も人気がある。「Built in Detroit」というキャッチフレーズが、この街らしいタフで頑固な輝きを演出している。自動車業界で失業した、高度な手作業を得意とする人たちを雇ったというストーリーも心憎い。
本店があるミッドタウンは、ここ5年で再開発が進み、人気が急上昇。アパートの99%が埋まっているという。
「Built in…」のキャッチフレーズには、ちょっとしたケチがついた。時計の部品がスイス製だったことなどから、連邦取引委員会が、消費者に誤解を与えるのではないかと指摘。しかしオバマ大統領をはじめ、有名人が多く愛用していることもあって、人気に陰りはなさそうだ。
今年の秋からは、ヘッドフォンやターンテーブルなどのオーディオ製品も売り出す。カフェをオープンするという話もある。
Detroit Institute of Arts
www.DIA.org
デトロイト美術館は、アメリカで最初にゴッホやマティスを購入した。ブリューゲル、レンブラント、ドガ、セザンヌなどの名画がそろう。ビアデン、ローレンス、ウィームスといった黒人アーティストの作品も多い。
360度を囲むディエゴ・リベラの壁画「Detroit Industry」は、みごと。フォード社の自動車工場ルージュにインスピレーションを得た、リベラの代表作。資本と労働、機械と人間の関係をここまで緻密に描き、かつ批評した作品はほかにないだろう。
しかし美術館の所有者がデトロイト市だったため、2013年に市が破産した際、美術品が売られてしまうかもしれないという危機に陥った。州や基金が尽力して寄付を募り、なんとか救われたのだが、このとき「デトロイト日本商工会」(Japan Business Society Detroit = JBSD)も大きく貢献した。ミシガン州に拠点を置く自動車部品メーカーなど、商工会に加盟する21社が、計200万ドル以上を寄付した。トヨタ自動車も100万ドルを寄付した。
美術館からの呼びかけに応えて、率先して地元の日系企業や駐在コミュニティーに協力を求めたのが、大光敬史(おおみつたかし)さんだ。デトロイト日本商工会顧問で、「アイシン精機」技監。
「ミシガンは日本にとって非常に大切な州だし、デトロイトと愛知県豊田市は姉妹都市でもある。治安が悪いというネガティブなイメージがあるかもしれないが、ここ4〜5年でいろいろな人たちが頑張っている。日系コミュニティーとしても、美術館への支援を通じて、デトロイトの復興に寄与したいと思った」と話す。
長期的な視野にたって日系社会の存在感を高めたいと考え、寄付金の25%は、常設の「日本ギャラリー」創設資金にあててもらうことにした。オープンは、来年秋の予定だ。
日本ではちょうど今、「デトロイト美術館展」が開催中。モネやゴッホ、セザンヌの名画が展示され、大盛況だ。豊田、大阪、東京を巡回して、来年1月まで続く。
大光さんは、現在DIAの理事も務めている。「デトロイトにこんなにいい美術館があるんだということを知ってもらうチャンスだと思う。日本からの観光客やアメリカに住む日本人にたくさん来てもらえるよう、活動していきたい」
DIAは今年10月まで、「Inside/Out DIA」という企画も実施中。デトロイト市内ダウンタウンなどの屋外に、コレクションの名画のレプリカを展示。セルフィーのコンテストや、自転車や徒歩で回って鑑賞するツアーなどを行っている。
Red Bull House of Art
www.RedBullHouseOfArt.com
デトロイト市民の台所「イースタン・マーケット」の一角にあるギャラリー兼居住施設。前述したマット・イートンさんがディレクターを務める。数カ月ごとに若手アーティスト数人を選び、ここで共同生活を送りながら、アート制作、展示イベント開催までを支援する。
絵画や彫刻、写真など、分野の違うアーティストたちが、アイデアやスペースを共有するのが特徴だ。ここに限らず、デトロイトの再生において、「シェアリング・エコノミー」がキーワードになっていることを実感する。
イースタン・マーケットは屋外型の市場で、やはりミューラルの宝庫だ。
City Sculpture Park
www.CitySculpture.org
若手に負けず、「オールドタイマー」も頑張っている。1960〜70年代にデトロイトのアートシーンを変えた運動「Cass Corridor Movement」のリーダー、ロバート・セストックさんが、昨年夏にオープンした。約30体の彫刻がある屋外美術館だ。
The Heidelberg Project
www.Heidelberg.org
デトロイトのストリートアートといえば、ハイデルバーグは外せない。歴史的黒人居住区ヒストリック・ブラックボトムで、住人のタイリー・ガイトンさんが始めた「路上美術館」は、今年で30年目を迎えた。
空き家や空き地、ガラクタや廃材を使ったアート。市当局にブルドーザーで2度破壊されたが、デトロイト有数の観光名所になった。ここ数年で5回も放火にあい、いくつかの家はなくなったが、それもストリートアートの宿命だからと、焼け跡をそのまま作品に変えている。
アートで人と人をつなぎ、魂を癒し、マインドを変える。その試みが30年を経た今、ガイトンさんは「これからは時間をまき戻すような創作をしていく」と話している。
取材協力/Special thanks to Travel Michigan (MEDC), and Detroit Metro Convention & Visitors Bureau
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