- Home
- 【米国大手会計士事務所・ 所得税担当者監修】 個人所得税申告書の作成ガイド
今年も税務申告の季節がやってきた。初めての税務申告を行う人だけでなく、毎年やってきた人にとっても気の重い作業だが、心配無用。英語で書かれた税務申告書(Tax Form)とその解説書(Instruction)を読むのは大変だが、本特集ではこの税務申告書を日本語で解説。この特集の説明と指示を一つ一つ読んでいけば、数字の記入や確認作業はそれほど難しくはない。本誌を参考に、今年もまた、米国の税務申告に挑戦してほしい。
注:本稿は、特に日系企業の駐在員の方々が連邦税務申告書を自分で作成できるようにステップを示し、並行して税務申告書に記入していけるように項目順に説明している。本稿で説明する税務申告書は一年間を通して米国に滞在する駐在員を想定して、Form 1040に基づいて解説している。赴任年・帰任年の人は、Form 1040、Form 1040NRあるいは両方を使わなければならない場合がある。赴任年・帰任年の税務申告は申告方法により税額が大きく変わるので、専門家にご相談を。最後に、州や市税申告書は連邦税とは異なる。本稿における税務申告書とは連邦税務申告書、税法の取り扱いとは内国歳入法(連邦税)のものを指す。
1 申告の手順
1 「申告身分」の決定
まず、自分の税法上の「申告身分」を決定する。申告身分には「居住者=Resident」「非居住者=Nonresident」「二重身分者=Dual Status」がある。申告身分の判定がとても重要なのは、申告が必要かどうか、課税対象となる所得や控除可能な項目は何かが申告身分によって異なるからである。詳しい判定方法は、32ページの「税法上の申告身分の決定」を参照のこと。
2 準備、確認事項
「申告身分」決定後、それぞれに必要な所得、控除の書類、税務申告書と解説書を準備する。通常必要な書類には下記のものがある。
居住者用の税務申告書用紙には、Form 1040EZ、Form 1040A、Form 1040があるが、課税所得が10万ドル以上の場合や項目別控除を申告する場合は、Form 1040を使わなければならない。一方、非居住者用の税務申告書用紙はForm 1040NR、Form 1040NR-EZ。二重身分者は1年間のうち米国居住者期間と非居住者期間があるので、米国居住者期間には居住者用の用紙(Form 1040)、非居住者期間には非居住者用の用紙(Form 1040NR)を使う。
配偶者と夫婦合算申告を行う場合や、配偶者や扶養者控除を適用する場合には、各自がソーシャル・セキュリティー番号(SSN)か、米国納税者番号(Individual Taxpayer Identification Number =ITIN)を取得している必要がある。ソーシャル・セキュリティー番号は、Form SS-5(SSN申請書)と必要書類をSocial Security Administration事務所に提出して申請する。ソーシャル・セキュリティー番号を取得できない配偶者や扶養家族は、税務申告書提出時にForm W-7(ITIN申請書)を添付して米国納税者番号を申請する。関連手続きについてはステップ④を参照のこと。
所得に関するもの
Form W-2 (給与源泉徴収票)、Form W-2G(ギャンブル儲けの支払調書)、Form 1099-B(株式・証券等売却明細書)、Form 1099-DIV(受取配当)、Form 1099-INT(受取利子)、Form 1099-MISC(賃貸収入、役務提供報酬額、ロイヤルティーなどその他の所得)、Schedule K-1 (パートナーシップ損益分配報告書)、その他の賞金、宝くじ受取額、キャピタル・ゲイン計算書類など
控除に関するもの
Form 1098(不動産(住宅)抵当貸付ローン支払利息証明書)、Form 1098-T(授業料控除証明書)、固定資産税、引越費用・寄付金・医療費などの領収書、州・市税予定納税、賃貸事業関連経費、ギャンブル損額など
豆知識
•内国歳入庁(Internal Revenue Service = IRS)や各州の税務当局は電子申告の利用を勧めており、一定の条件を満たせば、無料申告サービスの利用が可能。IRSや各州の税務当局のウェブサイトで確認する。
•今年からIRSは本人確認方法として、新たにPINは発行しないで、前年度の調整後所得金額または前年度自分で選択したPINを使用することを義務づけている。
•申告義務の要件は申告身分が居住者か非居住者かで異なる。
居住者:全世界で一定額以上の所得がある場合。申告資格 (Filing Status)及び年齢で金額が異なる。例えば、2016年12月31日現在65歳未満の人が65歳未満の配偶者と夫婦合算申告をする場合は、所得が20,700ドル以上、夫婦個別申告をする場合は4,050ドル以上だと申告義務がある。非居住者:米国内で事業をしている場合、4,050ドル以上の米国源泉所得がある場合、金額に関わらず源泉徴収されていない米国源泉所得がある場合、および一定の租税条約の恩典を享受している場合は申告義務がある。
•扶養控除の対象となっている子供でも次に該当する所得がある場合は、単独で納税者として申告する必要がある。
•投資所得が1,050ドルを超える場合
•勤労所得が6,300ドルを超える場合
•総所得が1,050ドルか、勤労所得に350ドルを足した金額かどちらか大きい額を超える場合
•ただし、年度末に子供が19歳未満か24歳未満のフルタイムの学生で、所得が投資所得だけの場合、条件を満たせば、子供の所得を親の所得として申告する選択が可能(Form 8814使用)。
•Form W-2や Form 1099の書類は翌年の1月31日までに支払人から個人に発送される。
3 税務申告書への記入
税務申告書を解説書と34ページにある「所得税申告書の作成」に従って記入する。解説書には所得認識や控除条件の詳細な説明だけでなく、計算ワークシートも含まれている。必要に応じて利用する。IRSのウェブサイトでオンライン上での申告書への情報の記入も可能。
4 必要書類の添付
税務申告書の1ページ目にForm W-2を必ず添付する。その他のForm(Form W-2GやForm 1099-R)は源泉徴収されている場合のみ添付する。夫婦合算申告や人的控除のために納税者番号を取得する必要がある場合は、税務申告書にForm W-7とパスポートの原本若しくは旅券所持証明書を添付し、税務申告書提出時に申請する。その際、税務申告書の郵送先が通常と異なりテキサス州のITIN Operation Centerとなりますので注意が必要。税務申告書で報告した所得や控除の証拠書類を税務申告書に添付する必要はないが、後にIRSからの質問や調査があった際に備えて保管しておくこと。
豆知識
•旅券所持証明書は、在米日本国大使館、又は総領事館で取得できる。在住の地域を管轄している在米日本国大使館、又は総領事館は以下のサイトで確認できる。 http://www.us.emb-japan.go.jp/j/kankatsu.htm
日本の外務省では旅券所持証明書を発行していないので注意が必要。
•日本では、在日米国大使館または総領事館で取得ができる。事前に在日米国対罹患または領事館のサイトで予約などの手続きを行うこと。
•米国納税者番号申請者が18歳未満の場合は、親、又は後見人が委任状なしでForm W-7に代理署名できる。18歳以上の場合は基本的に本人の署名が必要だが、委任状をForm W-7に添付することにより親、又は後見人が代理署名することも可能。
代理署名をする場合は、W-7の(署名欄)に次のように記入する。
Signature of applicant | 親・後見人の署名 |
Date | 署名をした日付 |
Phone number | 親・後見人の連絡先 |
Name of delegate | 親・後見人の名前(判読可能なタイプ、プリント) |
Delegate’s relationship | Parent, Court-appointed guardian, Power of attorneyから選択 |
•ソーシャル・セキュリティー番号を取得できない配偶者及び子供は、諸条件を満たせば、IRSのAcceptance Agentを通して米国納税者番号を取得することも可能。詳しくは、ご利用の会計事務所に問い合わせること。
•配偶者及び子供の米国納税者番号の申請の際には、パスポート、または旅券所持証明書の提出が必要なので注意すること。パスポートの原本を郵送したくない場合や、旅券所持証明書の取得が困難な場合は、前述の在米日本国大使館・領事館か、在日米国大使館・領事館で旅券所持証明書を入手するか、IRS Taxpayer Assistance Centerへ直接出向いてパスポートの認証をしてもらうことが可能。IRSに出向く際には完了した申告書も同時に提出することが必要。
•米国納税者番号を、2013年1月1日以前に取得、または過去3年間連続して税務申告書に記載しなかった場合は、今年度から更新義務が新しく必要となった。
5 税務申告書提出
2016年分の税務申告書の提出期限は祭日の関係で4月18日(火)となる。同日までに税務申告書を提出できない場合はForm 4868を提出することにより申告期限を6カ月延長できる(延長手続き後の提出期限は2016年分は2017年10月16日(月))。税務申告書に納税者本人の署名(夫婦合算申告の場合は配偶者の署名要)と日付を入れ、お住まい地域を管轄するIRSの住所へ郵送する。郵送先は税務申告書解説書で確認できる。税務申告書提出時に米国納税者番号を申請する場合はForm W-7を税務申告書に添付して右欄の住所に郵送する。郵送手段により、郵送先住所が変わるので、注意が必要。なお、米国納税者番号を申請しない場合の税務申告書の送付について、IRSは従来の指定された民間送付サービスに今年から更に8種類の送付手段を追加した。詳細については、IRS.govのprivate delivery service (PDS)を参照のこと。
USPSを利用する場合
Internal Revenue Service
ITIN Operation
P.O. Box 149342
Austin, TX 78714-9342
USPS以外のPrivate Carrier(Fedex等)を利用する場合
Internal Revenue Service
ITIN Operation
Mail Stop 6090-AUSC
3651 S. Interregional, Hwy 35
Austin, TX 78741-0000
豆知識
•4月15日が週末や祝日となる場合は次の事業日が申告締切日になる。今年の4月15日は土曜日のため、次の月曜日である4月17日が本来の締切日だが、その日はIRSの所在地であるワシントンDCの祝日にあたるため、2016年の申告期限は4月18日(火)となる。
•申告期限は、アメリカ国内から送付する場合のみ、消印有効。国外から送付する場合には、国外の消印ではなく、期限までにアメリカのIRSに配達されなくてはならない。
•税務申告書を郵送する場合は、特に税金の追加支払いを必要とする場合は、提出遅延、支払い遅延に課せられる罰金と利子を回避するため、Certified Mail (書留郵便)をご利用されることをお勧めする。
•延長手続きをしている場合でも、税金の支払期限は当初の申告締切日となる。この期日までに税金が払われない場合は、当初の申告締切日以降から支払日までの期間の未払い税額に利息と罰金が課される。
6 書類の保管、修正申告、税務調査
税務申告書の作成に使った書類は、所得や控除の証拠書類として最低でも時効が成立するまでは保管しておくこと。時効は原則、税務申告書の提出日または締切日(4月15日)のどちらか遅い日から3年で成立する。IRSはこの期間に手紙で税務申告書について問い合わせをしたり、調査官による監査を行ったりする。申告内容の立証責任は納税者側にあるので、納税者が申告内容を証明できない場合は、控除が否認されて追徴税や利子、ペナルティーの対象になることもある。一方、納税者は、(A)税務申告書の提出日または締切日のどちらか遅い日から3年、あるいは(B)納税をした日から2年の(A)(B)どちらか遅い日までに修正申告を行い、多く払いすぎた税金の還付を申請したり、足りなかった税金を追加納税したりすることが可能。また、売却損の繰越等が時効の3年以上前に発生している場合には、時効が過ぎても売却損は有効になる。その場合、損金が発生した年度の申告を証明として提出する必要がある場合もあるので、何らかの繰越金等がある場合には、時効が過ぎても廃棄しない方が良いことを念頭に置いてほしい。
豆知識
•無申告年度や不正、虚偽申告年度には時効が適用されない。
•総所得の25%を超える過少申告がある場合、時効は3年から6年に延長される。
•繰越欠損金がある場合は繰越欠損金が発生した初年度まで遡って調査されることもある。
•賃貸不動産や証券の購入価格など、減価償却や将来の課税所得の計算に必要となる書類は同資産を保有している限り保管する必要がある。
•IRSに提出した情報はオンラインまたはメールで入手できるようになった
(IRS.gov/ transcript. )。
この記事が気に入りましたか?
US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします