新型コロナウイルス禍、世界的な半導体不足、スエズ運河での巨大コンテナ船座礁など、2021年は予想を超えたさまざまな問題が自動車業界を襲ったが、欧米メーカー大手のステランティスは、今後そうした混乱が起きた場合の負担を全てサプライヤーに負わせようとしている。
■不可抗力の主張が不可能に
オートモーティブ・ニュースによると、同社は発注書の契約条件を変更しており、新しい契約では「サプライヤーは、将来のあらゆる事態を予見可能とみなし、そうした事態の発生を想定する必要がある」という文言を盛り込んでいる。
これに対し、法律事務所ブルックス・ウィルキンス・シャーキー&ターコ(ミシガン州)のジョナサン・ジョリセン氏は「法が提供する重要な防御機能は不可抗力の概念または商業的実行不可能性であり、契約時に予測できなかった事が起きた場合は役目を免除される。世界的な半導体危機ではこれが非常に大きな役割を果たし、サプライチェーン(供給網)のあちこちで不可抗力と商業的実行不可能の文字が行き来した。しかし契約にその条項が入ればそうした防御がなくなり、何が起きてもサプライヤーが責任を負うことになる」と指摘する。
これは、ステランティスがグローバルおよび北米の契約条件に加えた多くの変更の一つで、1月1日時点で同社が発行した全ての直接材料費の見積依頼書に適用されている。
ジョリセン氏によると、氏が話したサプライヤーはステランティスとの新しい契約に署名すべきか迷っており、以前の条件での取り引き継続や少なくとも何らかの妥協点を見つけようと多くの変更について抵抗している。
新しい条件では、事態の予見が可能という規定に加えて、サプライヤーは経験するあらゆるキャパシティーひっ迫の責任も負わなくてはならない。ジョリセン氏は「これら2つの規定の組み合わせで、サプライチェーンのすべての部分に対する責任をサプライヤーが負うことになり、世界で何が起きても役目を免除されなくなる。これは、特に今の状況下では痛烈なダブルパンチだ」と話す。
■非現実的なコスト目標
ある元ステランティス関係者は、最新の動きは同社が求める「非現実的な節約目標」が弾みになっていると話す。同社では購買部門が自然減でかなり縮小し、元FCAのベテランから新入社員への交代が進んでいる。
変更された同社の契約書の文言を調べた法律事務所フォーリー&ラードナー(ウィスコンシン州)の弁護士らによると、サプライヤーが達成したコスト削減は直ちにステランティスに転嫁しなければならないが、コストが上昇した時にサプライヤーがより多くを請求するための対応措置はなく、サプライヤーは毎年10月1日までにコスト削減と生産性向上のための計画書を提出する必要がある。
製造とサプライチェーン紛争を専門とする同事務所のニコラス・エリス氏は「彼らはサプライヤーがこうした打撃を吸収することを期待している。これは最近のサプライチェーンにおける多くの摩擦の原因になっている。ステランティスは、現在のインフレ環境に対応するのでなくに反対方向に走り、本質的にコスト増のリスクは全てサプライヤーに負わせる考えを強めている」と分析している。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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