変容する「ドンロー主義」~中東回帰、対中抑止に懸念

トランプ大統領2期目の外交ドクトリンとして打ち出された「ドンロー主義」。米本土防衛や西半球を最優先し、インド太平洋では対中抑止に注力すると宣言した戦略だ。しかし、トランプ氏は2月、重要度が低下したはずの中東で対イラン軍事作戦に踏み切り、5月の米中首脳会談では中国への融和的姿勢を示すなど、早くも変容しつつある。(時事通信社ワシントン支局 渡邊健作)

◇イランの次はキューバ?

ドンロー主義を地で行ったのが、1月の対ベネズエラ軍事作戦だった。「麻薬テロ共謀」を理由とするマドゥロ大統領拘束は世界に衝撃を与え、国内法も国際法も無視したと批判にさらされた。トランプ政権が西半球を「勢力圏」と見なしていることの本気度を内外に示した形だ。

ところが、米国は2月末、核兵器保有阻止などを名目に、イスラエルと共にイラン攻撃に踏み切った。政権が昨年12月に発表した戦略文書では「中東が長期的な計画や日々の外交政策を支配していた時代は終わった」と明言していたが、攻撃開始から3カ月たっても事態を収束できていない。

とはいえ、最優先するとしていた西半球政策はイラン攻撃の影でも進んでいる。次の標的は1959年のキューバ革命以来、対立してきたカリブ海の島国キューバ。トランプ氏は3月にフロリダ州で開かれたイベントで「次はキューバだ」と公言した。

1月末にはキューバの石油供給を事実上遮断。5月には、退任後も政治的影響力を持つラウル・カストロ元国家評議会議長が殺人共謀罪などで起訴された。カリブ海に空母ニミッツを展開させ、体制転換をちらつかせて圧力を強めるなど、ドンロー主義を放棄したわけではないとの姿勢も見せている。

◇台湾に言及せず

一方、インド太平洋では、米軍が対イラン軍事作戦で大量に弾薬を使用した影響が出ている。米メディアによれば、迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」などは既に半分を消費。備蓄の回復には数年かかり、将来の有事対応に支障を来しかねない。巡航ミサイル「トマホーク」の日本納入が遅れるとも報じられた。

さらに、トランプ氏が中国との貿易合意で成果を挙げることを望んでいることが、政権の対中姿勢に波及している。ヘグセス国防長官は5月末、シンガポールで開催されたアジア安全保障会議で演説。「米国は太平洋国家だ」と宣言し、海洋進出や覇権主義的な動きを強める中国をけん制した。ただ、台湾への言及を避け、台湾有事について「壊滅的結果を招く」と警告した昨年の演説からトーンダウンした。

リチャード・ハース米外交問題評議会名誉会長はSNSで、ヘグセス氏が台湾に言及しなかったことについて、韓国を防衛線の外側に置き、朝鮮戦争を誘発したと言われる1950年のアチソン国務長官の発言になぞらえて懸念を表明した。

演説の聴衆だった小泉進次郎防衛相から、インド太平洋へのコミットメントについてメッセージを求められたヘグセス氏は「どこよりも多くこの地域を訪問している」と述べ、重視している姿勢を強調した。だが、米国が西半球での介入や中東回帰で軍事資源を投入し続ければ、中国への抑止力が低下する恐れがある。

(U.S. Frontline News, Inc.社提供)

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