人工知能ツールの導入を中小企業で成功させる取り組み方 〜 ネットストックの在庫管理ツールが示す事例

人工知能基盤の在庫管理ソフトウェアを提供する新興企業のネットストックは、中小企業市場を積極的に開拓して成果を出している。テッククランチ誌によると、合理化や自動化の主体はあくまで従業員であり、従業員の職能を拡張するという姿勢で臨み、自由と統制の均衡を最適に維持しながら運用することが中小企業での人工知能ツール導入成功への近道だ。本稿ではその実態を前編と後編に分けて解説する。

▽答えではなく推奨事項を提示

供給網や物流は高度の人工知能が威力を発揮する場となっている。フレックスポート(Flexport)やウーバー・フレイト(Uber Freight)をはじめ多くの新興企業がさまざまのアプリケーションを開発し、大企業の顧客らを獲得している。

同分野の人工知能製品群はこれまで、フォーチュン500社に入るような大企業らに採用されてきたが、正しい取り組み手法によって展開すれば中小企業にとっとも有益なツールとなることが認識され始めた。

それを実践しているのが、2009年に設立されたネットストック(Netstock、デンバー拠点)だ。同社は最近、生成人工知能を活用した「オポチュニティー・エンジン(Opportunity Engine)」という新しいツールを市場投入した。同ツールは、既存の第三者ダッシュボードに組み込まれ、顧客らが使っている企業資源計画(Enterprise Resource Planning=ERP)ソフトウェアから情報を取得して、リアルタイムの推薦を定期的に提示する。

ネットストックは先日、同ツールによってこれまでに100万件の推薦を提示し、それらの推奨を受けた顧客の75%がその経済価値を5万ドル以上と見積もったことを明らかにした。

▽「熱意を持ちながらも慎重な姿勢」で試験運用

オポチュニティー・エンジンの利用会社の一社に、レストラン向けの資材を供給するバーグリーン・エリングソン(Bargreen Ellingson)がある。同社は創業65年の家族経営の会社だ。

当初には人工知能の活用に消極的だったバーグリーン・エリングソンのジェイコブ・ムーディ最高革新責任者は、「家族経営の古い会社らは新技術を盲目的に信用しない」「倉庫に突然行って、『これからはこのブラックボックスが管理する』と言ったわけではない」と話した。

ムーディ氏は、倉庫管理担当者が「使ってもいいし、使わなくてもいい」ツールとして、ネットストックの人工知能ツールの試験運用を提案した。「熱意を持ちながらも慎重な姿勢で提案した」ことが失敗を防いだ、と同氏は考えている。

同社の従業員らは、人工知能ツールを試験的に導入してからも、大量の情報を手作業でふるいにかけて在庫管理の意思決定を下している。人工知能が生成する要約は100%正確とは言えないためだ。ただ、オポチュニティー・エンジンの利用は、ある程度の傾向や方向を読み取るのに役立っていると同氏は話した。また、就業時間外でも処理が可能になるという利点もあるという。

▽人間に取って代わるのではなく職能の拡張に照準

ムーディ氏がこれまでに気づいた「より深遠な変化」は、経験の浅い倉庫作業員の仕事効率が上がったことだという。

同社は25ヵ所に倉庫を持っている。そのうちの一つに高卒で入社した社歴2年の従業員がいる。バーグリーン・エリングソンが在庫計画や需要予想のために使っているさまざまの在庫管理ツール群をその従業員がすべて理解できるようになるには、かなりの年数がかかる可能性がある。

「しかし、その従業員は多くの顧客のことをよく知っている」と同氏は説明する。「(その従業員は)自分が毎日、トラックに何を積んでどこに行くかを知っているため、オポチュニティー・エンジンが生成する単調な洞察をみるだけで、それが理にかなっているかどうかを瞬時に判断できている」。

配達や納品には、面倒な手作業による確認(受注内容、製品、納品先など)がつねにともない、遅延や間違いの原因になっている。しかし、人工知能ツールを活用することで、経験の浅い従業員でも一連の作業を効率的にこなすことが容易になる。「人工知能ツールが従業員の職能の拡張していることを示すものだ」とムーディ氏は述べた。

▽良質のデータで学習したモデル群が土台

ネットストックの共同設立者バリー・クカック氏は、新しい技術の導入を躊躇する気持ちを理解できると話している。多くの製品が、既存のソフトウェアに付属した平凡なチャットボットにすぎないという現状があるためだ。

同氏によると、ネットストックのオポチュニティー・エンジンが当初から成功を収めている理由にはいくつかある。同社には、小売店や流通業者、製造業者との関係を通じて過去10年以上かけて構築してきた良質のデータセットがある。それらのデータはISOの枠組みに準拠して厳重に保護され、同社の人工知能モデル群がそれにもとづいて推薦を提示している。

オポチュニティー・エンジンの利用者らは、提示された推薦に対して「サムズ・アップ」か「サムズ・ダウン」で評価を返せる。また、利用者らが実際にその行動をとったかどうかの実績からも人工知能は学習する。

▽統制と自由の均衡

その種の強化学習は、ソーシャル・メディアのようなものに応用すれば有害な結果につながることもあるが、ネットストックが気にかけるのは、「顧客の結果が何だったかであって、フェイスブックやインスタグラムのように何人が見てくれたかではない」とクカック氏は強調する。

同氏は、現時点では生成人工知能に限界があるため、この種の双方向性を拡大することには慎重だ。推薦がなぜ役に立たなかったかの感想や反応を返してほしい気持ちはあるが、それが究極的に正確さの低下につながる恐れがあると同氏は考えている。

「綱渡りのようなものだ。利用者らと大規模言語モデル群に自由をあたえればあたえるほど、(生成人工知能の持病である)いわゆる幻覚が起きる」とクカック氏は話した。

▽組織としてのノウハウを守ることが重要

ネットストックのダッシュボードでオポチュニティー・エンジンがあまり目立つ場所を占めていない事実は、同社のそういった姿勢を表している。

バーグリーン・エリングソンのムーディ氏は、人工知能がひかえめに表示されるほうがありがたいと考えている。「人工知能に在庫の決定を下させることはしない。人間が見て『それには賛成できる』と言わなければならない」と同氏は言う。「提案内容の90%に賛成できるようになれば、次の段階を考えるかもしれないが、いまはその段階ではない」。

現時点ではまずまずのすべり出しだが、生成人工知能がはるかに改良された場合の影響に関しては懸念もある。「それが何を意味するかは心配だ。多くの変化があるだろう。それがバーグリーンにおいてどのように見えるかはだれもわからない」とムーディ氏は話す。

倉庫の従業員たちを事務方に移すことになるとしても、組織としてのノウハウを守ることが重要だと同氏は考えている。「理論と理念を深く理解して、ネットストックがなぜどのようにその推薦をしているかを説明することができ、誤った方向へと盲目的に行かないようにすることのできる人」がバーグリーンには必要だ、とムーディ氏は述べた。

(Gaean International Strategies, llc社提供)

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