中国企業ら、禁輸下でもエヌビディアの人工知能チップを入手 〜 ウォール・ストリート・ジャーナル、手口と実態を報道

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、エヌビディア製の高性能チップの対中国輸出が制限されるなか、中国企業らが複雑な迂回取り引きを通じてエヌビディア製チップを不正入手して使っていることがあらためて判明した。本稿ではその実態を前編と後編に分けて解説する。

▽エヌビディア製GPU約2300個がジャカルタで見つかる

エヌビディア(Nvidia)は、人工知能GPU(graphics processing unit)「ブラックウェル(Blackwell)」の中国への販売許可をトランプ政権に要請していたが、11月初めのトランプ大統領の訪中前に政権内から激しく反対されていた。

しかし、最近のウォール・ストリート・ジャーナルの取材では、インドネシアのジャカルタにあるデータ・センターにエヌビディア製の人工知能GPU約2300個が実装され、中国の人工知能会社がそれらを使う準備を進めていたことが判明した。

同データ・センターは、私立学校と高層集合住宅のあいだに建つ窓のない建物だ。複数の国にまたがる一連の取り引きを介して、大量のエヌビディア製GPUがそこにたどりついた。その取り引きは、米国の禁輸先リストに載っている中国企業の子会社が取り計らって実行された。

▽第三国で不正輸入して中国企業らがリース

米国と中国は人工知能技術をめぐる覇権争いを激化させている。人工知能は軍事と産業の両方において優位性をもたらすことから、国家安全保障と国家経済にかかわる問題だ。米国政府はしたがって、ほとんどの高性能半導体の対中輸出を2022年から制限または禁止してきた。

エヌビディアのジェンスン・フアンCEOによると、中国市場における同社の占有率はそれによって、禁輸前の95%から現在ではほぼゼロに下がった。しかし、中国企業らは現在でもエヌビディア製チップを使っている。仲介業者らを通じてチップを中国に密輸している会社もあるが、第三国で不正輸入している事例が急増している。

典型的な手口は、オーストラリアやマレーシアに持ち込んでデータ・センターを構築し、それらの演算力を中国の会社らにリースすることだ。ときにはハード・ドライブをいっぱいに詰めたスーツケースでデータが運ばれることもある。

▽最終目的地までの4つのおもな経路

インドネシアの事例では、出所から最終目的地までチップがどのように流れたかをウォール・ストリート・ジャーナルが突き止めることができた。そのおもな経路として下記4つが確認された。

1.部分的に中国資本の米国内子会社を悪用

エヌビディアは、サーバーを製造する多数の会社らにチップを販売しており、その一社が、シリコン・バレー拠点のエイヴレス(Aivres)だ。エイヴレスの親会社の株式の3分の1は、中国の技術会社インスパー(Inspur)が保有している。

米国政府は2023年に、インスパーが中国軍のスーパーコンピューターに関与しているという国家安全保障上の理由からインスパーを禁輸リストに載せた。エヌビディアは、インスパーを含め、禁輸リストに最近に追加された中国数社の子会社とは取り引きできないが、米国内の子会社であるエイヴレスは禁輸対象ではない。

2.インドネシア企業がGPU搭載サーバー群を購入

エイヴレスは2024年半ばに、インドネシアの通信サービス大手インドサット・オレドゥー・ハッチソン(Indosat Ooredoo Hutchison)とクラウド演算をめぐる取り引き交渉を開始した。インドサットは最終的に、エイヴレスからエヌビディア設計のサーバー・ラック「GB200」32台を約1億ドルで購入した。サーバー・ラック1台につき72個のブラックウェルが搭載されており、合計で約2300個となる。

インドサットは、カタールの通信サービス大手オレドゥーと香港の巨大複合会社CKハッチソンの合弁事業だ。(後編に続く)

3.インドサットが上海企業に演算力を販売

インドサットは、エイヴレスの支援を受けて演算力の最終利用会社を確保したうえで、エイヴレスからサーバーを購入したと関係者らは証言している。その利用会社というのが、上海拠点の人工知能新興企業INFテック(INF Tech)だ。

INFテックは、上海の复旦(フダン)大学の人工知能研究所を率いるシー・ユアン教授が設立した会社だ。同大学の代表者も同交渉に関与していた。

ユアン氏は中国生まれだが、米国籍を取得しており、マサチューセッツ工科大学で博士号を取得した。同氏は、アリババで機械学習に早くから取り組んだ研究者の一人だ。アリババはINFテックの資金調達を支援した。

4.金融と医療での活用が目的

INFテックは、インドサットが調達したそれらの人工知能チップを金融サービスと医療向けの人工知能に活用することを目指している。関係者の一人によると、2025年10月時点でサーバー群はすでに納入済みで設置作業中だった。稼働開始後にはINFが金融業界向けアプリケーションや創薬といった科学研究向けに人工知能モデル群の訓練を支援することに注力すると関係者は述べた。

▽将来的に中国の政府や軍部による徴用の懸念

輸出制限に詳しい法律家たちによると、中国企業らが軍事目的に転用しないかぎり、INFの取り引きは、トランプ政権が実施している輸出制限策に違反していない可能性が高い。

しかし、より厳しい輸出制限の支持者らにとっては、その種の取り引きこそが懸念材料だ。中国企業らは商業目的の開発のみを手がけていると主張するが、中国の官民学融合戦略と法律によって、中国共産党や軍部に協力することが義務づけられている。

中共は、中華人民共和国国家情報法という異常な法律を2017年6月に制定した。同法第7条は、「いかなる組織および国民も、法にもとづき国家情報活動に対する支持、援助および協力を行い、知り得た国家情報活動についての秘密を守らなければならない」 と定めている。そのほか、国防動員法という法律では、国家が非常事態を認定した場合、個人や組織を人的かつ物的に動員できる権限を政府にあたえることが定められている。

▽トランプ政権、技術会社らによる事前精査任せ

ジョー・バイデン政権では、トランプ政権への交代直前に、インドネシアをはじめ、米国の同盟国ではない国々への高性能チップ輸出制限を強化する規則を策定した。しかし、トランプ政権は、その規則遵守状況を監視しない方針を打ち出した。チップ業界から激しく反発されたためだ。

バイデン政権下で輸出統制に関与していたテア・ケンドラー氏によると、同規則が施行されていれば、米当局はチップの購入会社や輸出業者らから理由を調べることができたはずだった。「米政府は現在、技術会社らが独自に事前精査を実行するようしむけている」とケンドラー氏は話した。

▽規則を守るかぎり中国にも販売する、とインドサット

エヌビディアの広報担当者は、社内の法令遵守担当者が確認したうえで取り引き先に出荷していると説明した。「当社はトランプ政権の方針を支持している」「バイデン政権の輸出制限策は、納税者に数千億ドルというコストをもたらし、革新を阻害し、外国企業らに競争優位性をあたえる結果になっていただろう」と広報担当者は話した。

かたやINFテックの広報担当者は、インドサットとの取り引きについて、軍事目的の研究を行っておらず、米国の輸出制限規則を遵守していると説明した。インドサットのヴィクラム・シンハCEOは、「相手が米国企業であれ中国企業であれ、インドネシア以外の顧客らには同じ規制を適用している。相手がそれらの規制を遵守しているかぎり、われわれは取り引きする」と話した。

(Gaean International Strategies, llc社提供)

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