シリーズ世界へ! YOLO⑭
Pura Vida! コスタリカ 前編
文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)
- 2013年10月5日
San Jose サンホセ
サンホセは一国の首都にしては素朴で小さな街に見えるが、ダウンタウンの目抜き通りセントラル・アベニューでは、毎日の通行量が50万人を超える。ダウンタウン周辺に住んでいる人口は8万人程度だというから、どれだけ多くの人が働きに来ているかが分かる。
その中心がセントラル・マーケットだ。入り口で、ツアーガイドのパウロさんと落ち合って、中を案内してもらった。
19世紀後半に始まった青空市場で、今も市民の台所として根づいている。プラスチックのお皿にサッカーボール、生きた鳥、願い事がかなうパウダー、風邪を治す薬草まで、なんでも売っている。
エコツーリズムが目的でやってくる外国人は、サンホセにはあまり滞在しない。数年前まで治安が悪くて汚れた街というイメージもつきまとった。「でも歩いてみるといろいろな発見がある。実は歴史が詰まった場所だってことを知ってほしい」とパウロさんは言う。そのために、自転車と徒歩でサンホセを回る無料ツアーを実施している。
正直言って、サンホセには大きな期待を抱いていなかったのだが、歩いてみると確かに面白い。野生動物もいいが人間観察もいい。「どこから来たの?」「コスタリカは国土は小さいけどハートは大きいよ」。チーズを売るおばさんたちが、そんな声をかけてくれた。
マーケットの一角には、市場で働く人たちが立ち飲みするカンティナ(バー)があった。トートゥゲロに行ってきたと言うと「これ飲んで」とショットをすすめられた。サトウキビからつくる「グアロ」というお酒。アルコール40度だから結構強い。もとはジャマイカからトートゥゲロ周辺に連れてこられた人たちが密造していた。白人に「何を飲んでる」と聞かれて「水です」と答え、「ウォーター」の発音が「グアロ」に聞こえて、今もそう呼ばれているという。
ジャマイカ系の人たちが話す言葉は「メカテリユ」(英語のMay I tell youからきている)といって、コスタリカ全般の日常語にも取り入れられている。たとえば、「元気?」「トゥワニース」(twanis)というやり取りがあるが、これは「too cool」という言葉からきているそうだ。
ほかにもコスタリカらしい言葉はないかと聞いてみると、バーにいた人たちは口をそろえて「プッラヴィーダ!」と言った。人生は最高、そんな意味らしい。
「How are you?」
「I’m pura vida!」
そんなやり取りが自然にできるようになったら、一人前のコスタリカンだ。
◆ ◆ ◆
マーケットを散策していると大雨が降ってきた。仕方なく、パウロさんとコーヒー店に座る。コスタリカ産の豆をひいて、チョレアード(chorreado)という伝統的なやり方で一杯ずつ濾して入れてくれる店だ。
通路にバンドが出て、クンビアというサルサやメレンゲに似た軽快な音楽を演奏し始めた。宝くじ売りのおじさんが、客寄せなのか、リズムに合わせて派手に踊っている。カウンターでアイスクリームを食べながら雨宿りしているお年寄りたちも、腰がすっかり動き出している。
雨が上がると表通りには、赤、白、青の国旗をまとったブブセラ売りのおじさんが現れた。あのうるさい音を吹きまくりながら売っている。聞けば、明日の夜は2014年ワールドカップ出場を賭けた北中米カリブ海予選の試合があるという。「2年前までの代表チームは弱すぎて誰も期待しなかったけど、今年は珍しくイケそうなんだよ」。パウロさんも燃えている。
確かにコスタリカ人のサッカー熱はすごい。ホテルでTVをつけると、回すチャンネルのほぼすべてがサッカー関連の番組だった。トートゥゲロでは、泊まったロッジの、頭上をサルが飛び回るジャングルの中でも「コンフェデ杯」がしっかり生中継されていた。くしくも、日本がイタリアにリードしながら結局3-4で負けるという試合だった。私からすれば不甲斐ない試合運びに思えたが、ロッジのスタッフたちは、「日本はよくやったじゃないか。イタリア相手にすごいよ」と、頼んでもいないのに慰めてくれた。
世界は狭い。地球のどこへ行ってもこんな話で誰とでも盛り上がれるのだから。それもこれもテクノロジーのおかげ。そして、日本のサッカーが強くなって本当によかった、と思ったのであった。(*ちなみにコスタリカは今年9月、2大会ぶりとなるワールドカップ出場を決めた)
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