シリーズ世界へ! YOLO⑭
Pura Vida! コスタリカ 前編
文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)
- 2013年10月5日
スペイン語で「肥沃な海岸」という名のこの国は、カリブ海と太平洋にはさまれた、アメリカ大陸のど真ん中にある。国土面積はウェストバージニア州とほぼ同じだが、そこにある豊かさといったら…。世界のバイオダイバーシティー(生物学的多様性)の約5%が集中する。軍隊を放棄し、環境保護を最優先に掲げ、エコツーリズムの先進国として世界中から人を集めるコスタリカ。その魅力と見どころの一端を紹介する。
Tortuguero トートゥゲロ
首都サンホセから北東へ、車で1時間半。小さなボートに乗り換えて、さらに1時間余。カリブ海に面した国立公園トートゥゲロに着いた。
スピードボートは、泥水のしぶきをあげて、細い川をカーブを切りながら進んでいく。突然、川幅が広がった。左はニカラグアとの国境へ続くサンフアン川、右がカリブ海へ流れ込むトートゥゲロ川だ。トートゥゲロ川を奥へ入っていくほどに、泥の色も緑の色も濃さを増す。
水の上を、真っ青な蝶モルフォ(morpho azul)がパタパタと飛んでいた。小さな体なのに、その光るような青さは、猛スピードのボートからもよく見えた。人工の蝶園にでも行かなければ見られない珍しい種類だと聞いていたのに、自然の中でこんなに早く出会えるとは…。コスタリカに来た実感が一気に湧いた。
トートゥゲロがあるリモン郡(Limon)は、パナマとニカラグアの間に、羽を広げた蝶のような形で横たわる熱帯雨林地域だ。このあたりは、鉄道建設やバナナ農園の労働力としてジャマイカから多くの奴隷が連れてこられた歴史がある。そのためコスタリカの中で唯一、黒人が多く、ジャマイカの食や言葉の文化が残っている。
とはいっても、一般的なカリブ海のイメージ、からっと晴れた青空とは無縁だ。とにかくよく雨が降る。特に夜中から明け方にかけては豪快だ。トートゥゲロ国立公園の中に泊まると、朝4時にはホエザル(howler monkey)の叫び声で目が覚めてしまうと聞いていたが、実際にはその時間帯はいつも豪雨で、サルも静かにしていたか、打ちつける雨の音にかき消されたか、ついに聞こえなかった。
こんな調子なので湿気も相当だが、太陽が顔を出すや、地元の人たちがすかさず洗濯物を干し始め、次の雨がくるまでにパッパッと乾かしてしまうのは見事だ。
野生動物たちも、雨が上がるなり活動を始める。木陰から、妖艶なトカゲ、エメラルド・バシリスク(emerald basilisk)がこちらを見ている。すると茂みの中からゴールデン・ヘロン(golden heron)が現れ、トカゲを捕まえようと、すらりと細く長い足をそろーりそろりと滑らせて近づいていく。
木の幹や葉の上では、ストロベリー・ポイズン・フロッグ(strawberry poison frog=イチゴヤ・ドクガエル)がピョンピョンと飛び跳ねていた。イチゴのように真っ赤な体と、真っ青な足。ガラス細工かと思うほど美しい。
対照的に、木の枝からは、大蛇のボア・コンストリクター(boa constrictor)が吊り下がっている。緑色のトカゲを抱き込んで絞めつけ、まさに飲み込もうとしていた。コスタリカでは、アメリカ大陸最大のヘビが見つかったこともあるそうだ。小さいながら猛毒をもつ、真っ黄色のヘビもいた。
地表では、アリの軍隊が列を作り、せっせと葉っぱを持ち上げて巣へ運んでいる。穴までちゃんと運んだか、誰もサボっていないか監視する役、葉っぱがきれいか検査する役など、いろいろいる。アリの世界は厳しい。
ジャングルをボートで回る。木の葉や根が水面に映し出す奇怪なリフレクションを見つめていると、自分が水上にいるのか水中にいるのか区別がつかなくなって、どこまでも続く迷路に入り込んだような錯覚を起こす。
上空でガサガサと音がする。ホエザルが木から木へ飛び回っていた。シロガオ・オマキザル(white-faced capuchin monkey)の群れも出てきた。
木や岩の上では、黒と白の優美なアニンガ(anhinga=アメリカヘビウ)や、くちばしの黄色いモンテズマ(montezuma oropendola=オオツリスドリ)が、悠々と羽を広げて休んでいる。私が乗ったボートには、フロリダから生物学の研修でやってきた大学生のグループがいた。双眼鏡を向けるたびに新しい発見があって、バードウォッチャーにとっては天国だと喜んでいた。
雨が多いとはいえ、ここは赤道から北へ10度しか離れていないので、数分も太陽の下にいると日焼けしてしまう。行水したら気持ちよさそうだが、トートゥゲロの川や海は遊泳禁止だ。ワニがいっぱいいて、特にカメが増える雨季には、好物を逃すまいとサメも寄ってくるそうだ。
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