シリーズ世界へ! YOLO② 韓国 世界文化遺産をめぐる旅

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

 仁川(インチョン)国際空港に着いたのは、予定よりも早く、まだ早朝4時20分だった。深夜にロサンゼルスを発った飛行機は、夏に里帰りする韓国系の親子連れで満席だったが、熟睡できた。到着ロビーを出たところのコンビニで、缶コーヒーを買うついでに、両替したてのウォン札をくずして使い方を練習してみる。

 私には初めての韓国だ。日本の隣国ながら、機会がなかった。近々訪れたいと思っていたところに、韓国政府観光局から、ユネスコの世界文化遺産に指定された史跡をめぐるツアーに招かれ、二つ返事で承諾した。

 仁川は、黄海のほとり、京畿湾に浮かぶ新しい空港だ。青々とした水田や畑を縫って、開発が進む宅地や工場群が見える。近くに温泉でもあるのか、硫黄のような匂いが小さく開けた窓から車内に漂ってきた。半島の入り組んだライン、左手奥には江華島と連なる山々。その後ろはもう38度線、北朝鮮なのだなと思う。

 昇りきった朝日の中、緩やかに蛇行する漢江(ハンガン)と、ソウルの街が浮かび上がる。ビル街に人気はまだないが、漢江沿いの幹線道路ではもう渋滞が始まっていた。

接待や宴に使われた慶会楼は、韓国最大の木造建築© Korea Tourism Organization

接待や宴に使われた慶会楼は、韓国最大の木造建築=景福宮
© Korea Tourism Organization

ソウル
Seoul

景福宮
Gyeongbokgung Palace

 全人口の4分の1近い1000万人以上が住むこの大都市ソウルに、朝鮮王朝時代(1392年~1910年)に建てられた王宮が、五つ残っている。半島の中央に位置し、山と川に挟まれた地形は都に最適で、王朝の発展とともに山沿いに城郭がめぐらされ、城門が幾つも築かれた。

 その中心・正宮が、今もソウルの目抜き通りにある「景福宮(キョンボックン)」だ。万年後まで光り輝く、福ある王宮という意味。正殿「勤政殿」の後ろには、青瓦台(現在の大統領府)が控える。蓮の池に浮かぶがごとく建てられた「慶会楼」と「香遠亭」は、王宮後方にそびえる北岳山に重ねて眺めると、ことのほか美しい。晴れた日はもちろん、小雨に霧けぶるような日でも水墨画のような趣がある。

 この王宮の美しさは、皮肉にも破壊の歴史に負うところがある。日本の占領統治時代に多くが破壊され、現在も正門を含めて復元作業が続いているのだが、建築物が少ないことがかえって散策の楽しさを増し、「隙間の景観」を発見させてくれるように思えた。

中州に建つ六角形の香遠亭Photo © Mirei Sato

中州に建つ六角形の香遠亭=景福宮
Photo © Mirei Sato


昌徳宮
Changdeokgung Palace

 
 景福宮の東にある「昌徳宮(チャンドックン)」は、1405年に建設された離宮。比較的保存状態がよく、歴史ドラマの撮影に使われることも多い、ソウルで一番人気の観光スポットだ。1997年、世界遺産に指定された。

 75エーカーの敷地は中国の紫禁城などに比べれば小さいが、市民に愛される理由は、自然との調和にある。山や丘を切り崩さずにそのまま生かした結果、敷地の6割は、森や渓流、滝を擁した庭になっている。北奥に広がる「秘苑(ビウォン)」は韓国を代表する庭園で、王族が瞑想や文武修練にいそしんだ場所。儒教を重んじた朝鮮王朝は、民心掌握のため華美な贅沢を慎み、シンプルで優美な王宮が望ましいと考えた。王宮内には2本の小川が交わる場所があり、王と民衆が一つになる象徴として大事にされたという。

 昌徳宮では年に数回、夜のムーンライトツアーが開催される。秘苑でお茶菓子をいただき、伝統音楽を聴く2時間。ソウルの高層ビルの夜景もきれいだ。

屋根や天井の極彩色は、丹青(タンチョン)と呼ばれるPhoto © Mirei Sato

屋根や天井の極彩色は、丹青(タンチョン)と呼ばれる=昌徳宮
Photo © Mirei Sato

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