彼の国を憂いて 〜 築地市場

文&写真/水島伸敏(Text and photos by Nobutoshi Mizushima)

 

ターレットを運転する市場人 Photo © Nobutoshi Mizushima

ターレットを運転する市場人
Photo © Nobutoshi Mizushima

 日本に帰るたびに必ず訪れる場所がある。東京の下町で育った自分には、その場所の持つ風情や活気が、とても居心地良く感じるからだ。新しくもなく、古すぎずもしない。そこには、いい感じのリアルな日本が存在している。

 中央卸売市場が築地に建てられたのは、関東大震災を経た1935年。江戸時代からこのあたりは漁師町として栄えてきた 。市場ができて80年、戦争の間も東京の食を支え続けてきた。そんな築地市場が今年の11月でなくなってしまう。正確には移転をするのだが、新しくなってしまう建物や共に歩んできた場外市場を残したまま場所を変えてしまうのだから、私にとっては、なくなってしまうのと同じことだ。

 時代の流れには逆らえないということかもしれない。ここ築地でも、昔は魚を乗せて、腰で引く“引っぱり車”と呼ばれる大八車が、いつからかガソリンで走る車になり、そう呼ばれていたことを知る人も少なくなった。

 一歩場内に足を踏み入れると、ターレットと呼ばれるそのガソリンで走る立ち車が、クラクションを鳴らしながら人と人の間を結構なスピードですり抜けていく。ここでは人より魚を乗せたそのターレットが優先ということらしい。この雰囲気がなんとも言えない。市場の中では、外の世界とは違う法(ルール)とここだけに流れる時間がある。縦横無尽に駆け巡るターレット、それを運転する市場人の姿、それが今の築地の名物だ。

 

1

2 3

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

関連記事

アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. 環境編 子どもが生きいきと暮らす海外生活のために 両親の海外駐在に伴って日本...
  2. 2025年2月8日

    旅先の美術館
    Norton Museum of Art / West Palm Beach フロリダはウエ...
  3. 約6億年も昔の生物たちの姿が鮮明に残るミステイクン・ポイントは、世界中の研究者から注目を集めている...
  4. 本稿は、特に日系企業で1年を通して米国に滞在する駐在員が連邦税務申告書「Form 1040」を自身...
  5. ニューヨーク市内で「一軒家」を探すのは至難の業です。というのも、広い敷地に建てられた一軒家...
  6. 鎌倉の日本家屋 娘家族が今、7週間日本を旅行している。昨年はイタリアに2カ月旅した。毎年異...
  7. 「石炭紀のガラパゴス」として知られ、石炭紀後期のペンシルバニア紀の地層が世界でもっとも広範囲に広が...
  8. ジャパニーズウイスキー 人気はどこから始まった? ウイスキー好きならJapanese...
ページ上部へ戻る