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- 彼の国を憂いて 〜 築地市場
マグロの競りが終わる頃、昇り始めた朝日が場内に差し込む。市場はさらに活気で溢れだす。新鮮な食材を求め、一流料亭から、下町の寿司屋まで、たくさんの魚や海産物を取り扱う人たちで賑わうのだ。仕入れの様子を垣間見てみた。ところ狭い場内のいたるところで、買い手と売り手が毎日顔を合わせているといった様子だ。世間話や冗談が飛び交っている。その間も魚を見る目の真剣さはお互い失わない。何年も築き上げた売り手と買い手の信頼がこの毎日を支えているのだ。“粋”(いき)と呼べる世界がここにはあると思った。
市場の活気が一通り落ち着いたお昼近く、場内の名物店でご飯を食べるために、大勢の人がやってきて列を作り始める。そして、今度はその多くが日本人だった。なんだかなと思いながら市場を後にした。
建物の老朽化がしばしば、移転の理由に挙げられるが、はたして本当にそうなのだろか。この市場にしても、あと何十年かしたら、もしかすると文化遺産になるかもしれない。老朽化が理由で取り壊さないといけないのなら、日本にはお寺や神社は一つも残ってはいないだろう。
移転後のこの跡地には、2020年の東京オリンピッックのための施設が建てられる予定になっている。何を求めてこの築地市場に外国から大勢の観光客が訪れているのか、それに気がつかないで取り壊してしまうのだから、独りよがりの“おもてなし”ほど馬鹿げているものはないと思えてくる。
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