シリーズ世界へ! YOLO⑨ 人気急上昇「ノルディック・スキー」
カナダ ブリティッシュ・コロンビアで体験!
文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)
- 2013年3月5日
ノルディック・スキーといえば、日本では「荻原兄弟」が有名にしたオリンピック種目。もしくは北欧やドイツの黒い森をガシガシと走るストイックなスポーツ…。そんなイメージが強いが、実は最近、北米で女性を中心に人気が急上昇している。
クロスカントリー、略して「XCスキー」と呼んだりもする。エクササイズ効果が高くケガの危険が少ないことなどから、普通のスキー(英語でアルパイン、またはダウンヒル)やスノーボードから「転向」する人も増えている。
そんな大注目のノルディックを、カナダのブリティッシュ・コロンビアにある「シルバースター・マウンテン・リゾート」で体験した。
シルバースターは、カナダ西部で最大の全長105キロのノルディック・トレイル(コース)を有するスキー場だ。バンクーバーやシアトルから数時間という便利な場所にありながら、海からはだいぶ離れているので「雪不足」の心配がない。シャンペン・パウダーと呼ばれる、羽のように軽くてなめらかでドライな雪に恵まれている。
トレイルはそのまま西隣りの「ソベレイン湖ノルディック・トレイル」につながっていて、山一帯が北米のノルディック好きには「天国」だ。ワールドカップに出場する選手やオリンピック代表チームの練習場所にもなっている。
ノルディック主体のスキー場はアメリカにも何カ所かあるが、シルバースターの魅力は、北米有数のコースと一流のコーチ陣を、初心者を含む一般スキーヤーにも広く開放していること。スキー・リゾートとしても評判が高いので、家族や友人同士で来て、アルパインやスノーボードの合間に気軽にノルディックを試せることだ。
ノルディック・プログラムを監督するガイ・ポールセンさんに、初心者のレッスンを受けた。シルバースターに勤めて30年余、日本の長野で2年競技スキーを教えたこともあるというベテランだ。
「歩く」「走る」と同じ
人間にナチュラルな動き
スキー板はアルパインに比べると細く、ストックも長め。スキーブーツのかかとが板に固定されていないのが特徴だ。普通に歩くのと同じ要領で、板をまっすぐ揃えたまま、両手を前後に振って前に進む。板が細いのでバランスをとるのに最初は違和感があったが、かかとが自由になる分、足も軽くて動きやすい。
慣れたら少しスピードを上げて歩幅を広げる。アイススケートやローラーブレードに似たイメージで、膝を曲げ、足腰の筋肉と腹筋を使って前に体重を移動させていく。
のぼりの斜面できつくなったら、板を「V」字(逆ハの字)に開いて足の内側に体重をかけ、ストックを使って上がる。ご褒美の下り坂は、板を揃え、両方のストックを同時に突きながら加速して滑り降りる。
トレイルは「2車線」で右側通行がエチケットだ。すでに誰かがつけた2本の線の上を滑るようにして、後ろから追い抜きたい時は声をかけ、抜かれる人はコースの外に出て譲る。V字でのぼる時には2車線の真ん中を使い、線をつぶさないようにする。
この繰り返しだ。難しい動作は一つもない。この「難しくない」ということが、近年のノルディック人気の大きな理由だ。「二本足で歩行する動物(人間)にとって自然な動きばかりだからだ」とポールセンさん。アルパインやスノーボードよりスリルは少ないが、重力やスピード、急勾配と「戦う」必要もない。
高いエクササイズ効果
体への負担は少なく
雪が多くウィンタースポーツが盛んなカナダでも、アルパインやスノーボードを楽しむ人の数に比べればノルディック人口はまだ少ないが、伸び率では他を圧倒している。ポールセンさんは「特に35歳以上の女性の間でノルディックを始める人が急増している」と言う。
キーワードは「High Performance Low Impact」。カーディオ(有酸素運動)の一種で、腹筋や太もも、二の腕も鍛えられる。実際には激しい運動なのに、体への衝撃、特に関節にかかる負担が少ない。「いつまでも健康でアクティブでいたい。冬は好きだけど、アルパインやスノーボードはちょっと怖くなった。そんな人たちが一生できるエクササイズとしてノルディックを楽しんでいる」そうだ。
お金があまりかからないことも魅力の一つ。板やブーツのレンタル料はアルパインやスノーボードの半額程度で、リフト券代も節約できる。
雪と大自然を満喫
おしゃべりも楽しく
私が習ったのは「クラシック」スタイルだが、これを発展させた「スケーティング」スタイルではV字のままスピードを上げて滑るように進み、「荻原気分」が味わえる。新雪の上をゆく「バックカントリー」スタイルもある。
マイペースで滑りながら、雪景色と大自然を存分に眺められるのもいい。シルバースターのトレイルは、まるでウェディングケーキのように何段にも重なってデザインされている。雪をかぶった松林がケーキトッパーにも見えて美しい。
トレイルは夜のうちにきれいにグルームされている。リフトの営業時間に左右されないので、朝一番のコーデュロイのような雪を踏みしめたくて、日が昇ると同時に出かけていくスキーヤーが多い。コーヒーを手に犬と散歩する人や、スノーシュー(西洋かんじき)を履いて歩くカップルもいて、すれ違う人たちと挨拶を交わし、立ち止まっておしゃべりできるのもノルディックならでは、だ。
緩急つけたトレイルの途中には幾つかのキャビンがあって、コーヒーやランチ休憩ができる。レッスン以外にぜひ体験してほしいのが「ファイヤー&アイス・ディナー・ツアー」だ。日が暮れた後、ノルディック・スキーをはいて額に懐中電灯をつけ、リゾート中腹にあるキャビンをめざす。雪に浮かび上がる夜の森。カナディアン・サーモンやステーキ、地元オカナガン・バレーのワインを楽しんで、また宿へ戻る。
ノルディックを愛し、広めたいという情熱にあふれたポールセンさん。「最近は、冬を嫌ってビーチや常夏のリゾートへ逃げる人が多いけれど、雪は自然の恵み、私たちの生活の一部です。カリフォルニアやニューヨークの人たちは日頃からジョギングやハイキングを楽しんでいるから、一度ノルディックをやったら絶対好きになると思う」と話していた。
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