諦めない!
アメリカでの日本語教育

 お子さんが日本語で会話ができるということであれば、話し言葉として習得している語彙と文字を合わせる練習から始めるといいと思います。これまで音としてよく聞いていたもの、あるいは子どもの好きなものの名前に文字を合わせることで、話し言葉から書き言葉へのつながりができていきます。ひらがなやカタカナの50音表の一字一字を順番に教える従来の方法ではなく、子どもが興味、関心を持っているものの語彙を単語で教えていく方法をお勧めします。つまり、おもちゃのガンダムが好きな子どもには「ガンダム」という単語を見せ、それを読んで書けるようにする。ペットがいるご家庭では、「いぬ」「ねこ」という単語やそのペットの名前が読めて書けるようにします。

 また、日本のお菓子を買う時に、ラベルに書いてあるお菓子の名前を子どもに見せながら一緒に読んだり、買い物リストのお菓子の名前を子どもが読んで、それをお店で探してきたりするのもいいと思います。つまり、子どもの生活の中にあるものと字を結びつけることで、自分に関係があるものだという意識を持たせることが、字を覚えていく動機になります。ひらがな50音を順番に教えても自分に関係があるという意識が芽生えず、学習動機が高くなりません。この方法では実生活にあるものから字を学ぶので、ひらがなで書いてある名前はひらがなで、カタカナの名前はカタカナではじめから覚えさせるようにしましょう。チョコレートは「ちょこれーと」ではなく、最初からカタカナでいいのです。お菓子以外でも、おもちゃの名前でも構いません。ご家庭でも、文字を読み取るスピードを速くするために、子どものおもちゃに「ボール」だとか「ガンダム」だとかのラベルを貼っておくといいと思います。

 何歳までに言葉の習得を始めないとネイティブのようにならない、と言われることがあります。確かに発音に関しては、そうだと言えます。大人になってから英語を習得した日本人が英語のLとRの違いを聞き分けられない、うまく発音できないのは、子どもの頃に習得しなかったせいです。しかし発音以外では、中学、高校になって外国語を学ぶと、文法の規則など抽象的な概念を理解して言語を学ぶということができるようになります。

 ただし、スポーツや音楽でも達成度に個人差があるように、言語習得でも言語感覚の強い子と弱い子によって習得に差が出ます。第一言語として日本語を学ぶ子ども達でも、国語の得手・不得手があることからもそう言えます。ですから、何歳を超えると(言語習得は)難しい、とは一概には言いにくいのです。

 補習校・日本語学校などの学校に行って日本語を学ぶこともいいでしょう。けれども、ただ学校に行かせておけばいいというわけではありません。家庭では家で話す日本語の発達を助けるという役割があります。

 そして、大学に入ると日本語学校に通わせてくれた親に感謝する時が来ます。私が教えているカリフォルニア州立大学ロングビーチ校の日本語学科にもそういう学生がいます。金曜の夜は日本語学校の宿題をするのが嫌だったけれども、お母さんが竹刀を持って横に立っていて、宿題をしないという選択はなく、おかげで補習校の高校レベルまで終えることができてお母さんに感謝しているという話をしていました。

 子どもが日本語に取り組んでいる時期、とくに小学校の年齢では、なぜ日本語を勉強しないといけないかが理解できません。ですからご褒美をあげたり激励したりして、子ども本人が日本語が話せると自分にとって何かプラスになっていると考えられる年齢になるまで、「もう少しやってみよう」と背中を押してあげてください。また、地域的に日本語を学ぶ学校のチョイスがあるのだとしたら、少しでも本人が楽しく学べる学校をお子さんと一緒に選んでいただきたいと思います。

【回答者】ダグラス昌子

カリフォルニア州立大学ロングビーチ校教授。教育学博士。研究分野は、継承日本語学習者(子どもおよび大人)の日本語習得、カリキュラムデザインとインストラクション。オレンジコースト学園日本語学校のカリキュラムアドバイザー。全米日本語教師連盟継承日本語SIGおよび母語・継承語・バイリンガル教育研究会(日本)理事。

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