スニーカー製造、ロボットにはまだ無理

トランプ大統領は、アジアなどの低コスト諸国に対する高関税が米国内に製造業や雇用を呼び戻すと信じているが、人件費の高い米国では企業は人を機械に置き換える必要がある。しかし一部の業界ではそれが極めて困難だ。

◇国内生産目指したが…

ウォールストリート・ジャーナルによると、スポーツ用品大手のナイキは、2015年から数百万ドルを投じて非常に労働集約的な業界の部分的な自動化を目指した。当時は、中国の人件費高騰と3D(立体)プリントといった製造技術の進歩で、より少ない労働者で靴を製造する新しい方法を見出す可能性があると思われた。

ナイキは、アップルの「Mac Pro」パソコン製造工場(テキサス州)の建設を支援した製造業者フレックス(Flex)と協力し、メキシコのグアダラハラにハイテクを備えた新工場を建設して、23年までにスニーカー数千万足を作ることを目指した。工場では数千人が働くことになるが、アジアで同じ数のスニーカーを製造するのに必要な人数よりはるかに少なく、プロジェクトが成功すれば米国での生産の手本にもなるはずだった。

◇問題が続出

ナイキとフレックスは、電子部品製造でよく見られる製造機器などを使った新しい生産ラインを構築。これらの機械で靴のアッパー部分を作り、布を縫い合わせてロゴを付け、靴底と接着させようとした。ところがすぐに問題が出現した。ロボットは、靴の製造には欠かせない柔らかくふわふわして伸縮性のある素材の扱いに苦労した。

電子機器の場合、材料が硬く形も同じなので機械は何回も同じ手順を繰り返せるが、靴の製造では生地は温度によって伸縮し、靴底は必ず左右で形が違う。人間ならこれに適応できるが機械には難しかった。その結果、工場の作業は当初の想定ほどには自動化されず、生産量の増加に伴い人員は予定の約2倍の5000人に膨れ上がり、ベトナムで同様の人数を雇うよりもコストがかさんだ。

自動化が困難な要因は次々と出てきた。ナイキが作る靴の種類の多さも重大な問題で、靴のデザインは自動車やiPhone(アイフォーン)と違って頻繁に変化した。フレックスのチームが、ある靴にナイキのロゴマーク「スウッシュ」を付ける作業の自動化方法を考えるのに8カ月を要し、ようやくできた時に生産ラインではすでに新しい靴を作っていたこともあった。

◇関税の標的に

17年までにフレックスの投資家らはコストの上昇に難色を示し、電子機器の製造装置がなぜ靴の生産に関わるのか疑問視する声も上がった。結局、フレックスとナイキは19年初頭までに自動化プロジェクトを終了した。同じ頃、同様の取り組みを進めていたアンダーアーマーやアディダスも米国などでの自動化プロジェクトを断念した。

これら3社の靴メーカーは、新型コロナウイルスの流行による工場閉鎖で生産拠点の集中リスクが明らかになった後も従来の海外拠点(ベトナム、中国、インドネシア)での製造に固執している。これらの国は現在、トランプ大統領の関税の標的となっている。

(U.S. Frontline News, Inc.社提供)

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