ソフトバンクの取締役会は、子会社のスプリントとその競合社のTモバイルUSを合併させる交渉を打ち切る決定をくだした。ブルームバーグによると、赤字が続くスプリントはそれによって、別の再建策を模索することになり、厳しい状況に直面する。
▽所有率交渉で溝が埋まらず
交渉決裂の主因は、スプリント(Sprint)とTモバイル(T-Mobile)の合併後の会社に対するそれぞれの親会社の所有率に関して合意に達する可能性がなくなったためだ。
Tモバイルの親会社であるドイツ・テレコムとソフトバンクは、スプリントとTモバイルを合併させることで合意したのち、親会社の出資比率を中心とした諸条件をめぐり交渉してきたが、結局、溝は埋まらなかった。
▽ドイツ・テレコム、経営支配権を譲らず
ドイツ・テレコムは、合併会社の経営支配権を完全ににぎることを要求したが、ソフトバンクの取締役会がそれを問題視した。
Tモバイルは、スプリントの約2倍の時価総額を持つため、合併会社の経営権を完全 に掌握したいという考えは理解できる範囲内といえる。
一方のソフトバンク側は、スプリントの評価額に上乗せしない額での合併という条件で譲歩したため、経営権の一部を認めるようドイツ・テレコム側の譲歩を期待した。
スプリントの株価は同報道を受けて、30日のニューヨーク証券取引所で一時13%も暴落し、Tモバイルの株価は5.9%下落した。
▽孫正義社長の最初の思惑
米携帯電話サービス業界では、ベライゾン・ワイヤレスとAT&Tの2強と、3位のTモバイル、4位のスプリントという4大キャリヤー体制で固まっている。
ソフトバンクの孫正義社長は、スプリントとTモバイルが合併して2強に対抗できる 第三勢力を誕生させることで、より健全な競争原理が働き米消費者に恩恵をもたらすことが可能になる、と主張して、最初の合併案を2013年に打ち出した。
▽2回目の提案
当時には業界4位だったTモバイルとその親会社ドイツ・テレコムはその案に同意 し、孫氏の希望する条件で交渉が進んだとみられる。しかし、米司法省独占禁止法局と 連邦通信委員会(FCC)によって反対され、孫氏は2014年に合併案を断念した。米政権が民主党から共和党のトランプ政権に代わったことで、孫氏は合併案をドイ ツ・テレコムにふたたび提示し、約数ヵ月にわたって交渉してきた。
▽急転直下の決断か
孫氏は、ソフトバンクが合併会社を所有する率について譲歩する姿勢を示していたため、最終合意は確実視されていた。
また、ドイツ・テレコムのヘトゲス社長は米携帯電話サービス市場について、「2強 による寡占状態であるため、第三勢力が誕生すれば競争がうながされるだろう」と取材に答えたことが29日にドイツで報じられたことから、合意間近という観測が広がった。
したがって、ソフトバンクによる今回の交渉打ち切り決定は、急転直下の展開になったとみられる。
▽万策尽き果てるか
孫氏は、ドイツ・テレコムとの2回目の交渉が始まる数ヵ月前に、赤字が続くスプリ ントを立て直すために米著名投資家のウォーレン・バフェット氏や、米ケーブル・テレビ・サービス大手チャーター・コミュニケーションズに投資しているジョン・マローン氏に支援要請を打診した。孫氏はさらに、米衛星テレビ・サービス大手ディッシュ・ネットワークとの業務提携か経営統合を検討する動きも見せた。しかし、それらの再建策すべては交渉にすらいたらず霧消した。
スプリントの合併先としてTモバイルが最適であることに疑問の余地はない。その選択肢がなくなったいま、ソフトバンクは、スプリントの立て直しに向けて難しい状況に直面することになるとみられる。
【https://www.bloomberg.com/news/articles/2017-10-30/softbank-to-halt-sprint- merger-talks-with-t-mobile-nikkei-says】 (U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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