「人のデジタル・ツイン」がコスト削減と効率化をもたらす 〜 ファッションから臨床試験まで人に代わる人工知能

これまで人間がこなしてきたさまざまの作業や役目を人工知能が肩代わりするようになっている。ファッション・モデルや臨床試験の被検者までもすでにデジタル化されている。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、人工知能システムは、人の外見や購買様式、健康状態といった個別の特徴に関するデータを取り込んだうえで、たとえば、特定の服を着た際にどのように見えるかや、質問にどのように答えるか、病気にかかったときにどのように影響されるかを予想することで、コスト削減と効率化に貢献している。

▽広範の業界ですでに実用化

その種の人工知能コンテントは、人のデジタル・ツイン(person’s digital twin)と呼ばれることもあり、さまざまの方面ですでに実用されている。

ロサンゼルス拠点の新興企業AIファッション(AI Fashion)は、実際のモデルの写真にもとづいてまったく新しい画像を人工知能で生成し、その合成モデルにさまざまの服を着せて広告キャンペーンやイーコマース・サイトで使えるようにしている。

また、ブロックスAI(Brox AI)は、ブランドの嗜好や買い物の習慣にもとづいて消費者たちのデジタル版を構築した。それらの仮想消費者を使うことで、会社らはたとえばフォーカス・グループの調査を仮想的に実施できる。

さらに、サンフランシスコ拠点のアンラーン(Unlearn)は、健康データにもとづいて人々のデジタル・ツインをつくり、疾病がどのように進行するかを予想している。

▽「消費者の認識や態度が硬化する可能性」も

人のデジタル・ツイン技術は、労働力としての人間の未来に疑問をもたらすが、それらの会社らは、人間が今後も重要な役割りを果たし続けると説明している。一般に、デジタル・ツインをつくるためのデータ提供に対しては報酬が払われる。会社らにとっては、大勢の人をすばやく集めることができ、コスト削減になる。

調査会社のガートナーでは、そういった技術を「デジタル・ヒューマン(digitalhuman)」と呼んでおり、向こう5~10年以内に同社のすべての顧客会社らがそれを持つようになるかもしれないと予想する。

ただ、課題もある。「言葉の使い方やデータ、用途に注意しなければ、消費者の認識や態度が硬化する可能性がある」と、ガートナーのマーティー・レスニック氏は指摘する。とはいえ、多くの会社が人間の何らかの側面をデジタル化することで事業を開拓しつつあることは確かな事実だ。

▽AIファッション、人間のモデルを土台に

女性向けアパレル・ブランドのアン・クライン(Anne Klein)でも、AIファッション技術を試験中だ。実際のモデルの写真にもとづいて、ファッション写真を生成することを目的としている。

「消費者はいままで以上に個人化を求めているうえ、さまざまの環境で商品を見たいと感じている」「人工知能によってそれを大規模に実現できるようになる」と、同社のデジタル担当上席副社長ダグ・ワイス氏は話す。

その一方で、完全合成(架空)モデルを生成する会社もあることから、モデルたちの職を奪っているという批判もすでに表面化している。

AIファッションでは、人間のモデルを画像生成過程に組み込むことで差別化を図っている。モデルへの報酬額は、ブランドや画像枚数、モデルの人気によって異なる。

▽ブロックスAI、消費者2万7000人のデジタル・ツインを構築

ブロックスAIのでは、「念入りの聞き取り調査で集めた情報をもとに2万7000人のデジタル・ツインを構築した」。調査に協力した消費者には、参加した回数に応じて20ドルから150ドルを払っている。

共同設立者のハミッシュ・ブロックルバンクCEOによると、同社のシステムは、それらのデータにもとづいて、たとえば、30代女性がストリーミング・サービスの10%の値上げを受け入れるかどうかといった質問に答えることができる。

同ツールの利用料金は、使い方によるが年間2万5000ドルから数十万ドルに上ることもある。それでも、フォーカス・グループに年間数百万ドルを費やしている会社らにとっては大きなコスト削減だ、とブロックルバンク氏は話した。

▽アンラーン、臨床試験の被験者らをデジタル・ツインで代替

かたやアンラーンは、臨床試験参加者たちの健康状態に関するベースライン・データ・ポイントを利用し、大量の臨床データを使って訓練されたモデルを適用することで被験者らのデジタル・ツインを生成している。

臨床試験では通常、実験薬を投与される群と疑似薬を投与される群をつくって、疾病の進行状況を比較観察する。疑似薬の群にデジタル・ツインを使うことで、実験薬を投与される被検者を増やせるようになり、その効果があればより多くの人命救助につながる可能性がある、とチャールズ・フィッシャーCEOは説明している。

そのほか、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療薬開発に取り組むバイオ技術会社クラリス(QurAlis)の共同設立者キャスパー・ロエCEOは、患者の多くが3年以内に死亡するALSのような疾病では同技術が特に有意義になる可能性がある、と考えている。

「致死的な病を患っている人に疑似薬を投与しなければならないのは非常に不運なことだ」と同氏は話す。開発までには時間がかかるが、「いつかは到達できると信じている」と同氏は述べた。

(Gaean International Strategies, llc社提供)

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