生成人工知能がさまざまの方法で働き方を変えつつある。ウォール・ストリート・ジャーナルは最近、生成人工知能が利便性や効果をもたらすことで働き方が変化したと話す医師と弁護士、販促担当者、不動産技術営業担当者、クラウド工学者、映画業界のアーティストの事例を報じた。
▽人工知能によって「役割りが再構成」される
人工知能はこれまでのところ、懸念されたほどの雇用減にはつながっていない。3月に発行された国勢調査では、2023年7月から2024年2月までのあいだに生成人工知能導入にともなって解雇したと答えた雇用主は2.6%で、逆に生成人工知能導入にともなって雇用を増やした割り合いは2.8%だった。
それと同時に、オープンAIのチャットGPTやグーグルのジェミナイをはじめとする大規模言語モデル群(large language models=LLMs)を使った生成人工知能ツール群は、米国で日々の作業に徐々に浸透しつつある。作業を加速することもあれば、作業の方法を変化させることもある。
「人工知能が職を奪うといったようなことではなく、役割りが再構成されて人工知能という協力者が従業員につくようになっている」「その結果、従業員らの仕事が効率化すると同時に、従業員らの満足度も高まっている」と、コンサルティング会社フェラッツィ・グリーンライト(Ferrazzi Greenlight)のキース・フェラッツィCEOは話している。同社は、人工知能を使った働き方についての助言を顧客会社らに提供している。
▽6人の職業人の仕事に現れた変化
人工知能を活用して仕事の効率と利便性、創造性を高めている6人の職業人の事例を以下に紹介する。
■ボストン近郊の診療所勤務医
マス・ジェネラル・ブリガム(Mass General Brigham)病院では現在、約450人の医師が生成人工知能を試験運用し、診療記録の作成やそのほかの事務作業に役立てている。医師にとっては、診察後の医療記録の作成および更新が大きな負担になっており、それが長年にわたり医療業界の課題とされてきた。
同病院のボストン近郊の診療所に務めるエイミー・ウィーラー医師も、生成人工知能を実験的に使っている一人だ。生成人工知能が診察中の会話を聞いて医療記録を更新する。通常なら数分で診察ノートを作成できる。ウィーラー氏にとっては、診察時の記憶が新鮮なうちに、生成人工知能が作成したノートを確認できる利点もある。
これまでのところ、同ツールの作成するノートは「驚くほど正確だ」とウィーラー氏は話している。大幅の書き直しが必要になることはまったくないという。
患者の側からも、診察中に医師の目を見て話せることを喜ぶ声がある。これまでの診察では、患者が話すあいだに医師はコンピューターに向かってその内容を書き留めていくことが大半だ。「医師が筆記者にならずに真の医療を提供できた時代に戻った」とウィーラー医師は話している。
■法律事務所の補佐的弁護士
生成人工知能が職を奪うという筋書きの初期の予想では、弁護士の仕事への影響がよく取り沙汰された。人工知能は数千ページもの文献を瞬時に読み込めるため、特に下位業務にあたる補佐的弁護士(associate)や法律事務職(paralegal)への影響が懸念された。
しかし、一部の法律事務所では、まさにそうした立場の従業員らが積極的に生成人工知能を活用している。たとえば、ロープス&グレイ(Ropes & Gray)法律事務所の補佐的弁護士アイザック・ソマーズ氏は、生成人工知能ツールのおかげで日々の調べものが効率化したと話す。
これまでの検索方法では、自分が入力したキーワードを含んだ案件しか見つけられなかったかもしれないが、生成人工知能ツールでは「ABCの文脈でXYZの問題をあつかった案件がニューヨーク州南部裁判所の管轄地域にあったかどうか」のような聞き方ができる、とソマーズ氏は説明する。その方法では類義語を含む案件も特定されるため、はるかに幅広く調べられるという。
イー・ディスカヴァリー(e-discovery)のそういった機能向上の結果として、いままでよりも担当案件を増やすことができ、パートナー弁護士や上席補佐的弁護士(juniorassociate)とも緊密に連携する機会が増えた、と同氏は話している。
人工知能は仕事を奪うというより助けてくれている、と同氏は強調すると同時に、「どんなツールでも出力を確認かつ検証するには人間の力がつねに必要だ」と述べた。
■製品販促担当者
技術業界で製品販促主任として働くダン・ベッティンガー氏は、コピーを書いたり、記事やブログ投稿の概要を作成したりするのに、ほぼ毎日のように生成人工知能ツールを使っている。
同氏いわく、生成人工知能ツールは特定の主題に関して「これまでに見たことのない」興味深い案や取り組み方を提示することがある。それを使うことで、「少なくとも1日1時間」を節約できているという。
また、生成人工知能ツールは、自分が書いたコピーを確認するうえでも有効だという。たとえば、「当該コピーを見た人がどの部分について気に入らないと感じるか、どのように修正できるか」と質問して回答を得ることもできる。
生成人工知能ツールが登場する前には、そういった確認や検証には、時間と費用がかかるフォーカス・グループ調査を実施する必要があった。
ただ、試行錯誤もある、とベッティンガー氏は指摘する。プロンプトの書き方が悪ければ良い結果を得られない。また、「返ってくる出力をすべて使えるわけではなく、事実確認が必要だ」と同氏は述べた。
■不動産関連技術の営業担当者
不動産取り引きの関連業務を支援するソフトウェア会社のサービス責任者アレックス・ブラウン氏は、ソフトウェア導入を検討中の顧客に向けた営業プレゼンテーションの作成にチャットGPTを使っている。登記管理会社や住宅ローン提供会社、保険会社が同氏のおもな顧客だ
同氏は、以前なら資料作成に何時間もかかっていたが、チャットGPTを使うことで労力と時間を節約できるようになった、と話す。「人工知能は、意味を保ちながら凝縮するのを助けてくれる。私の苦手な部分だ」。
プロンプトでは、「このように書いたけれども、自分が本当に言いたいことはこれなので、3段落を書き直してほしい」といった指示を出すこともできる。その結果の質については、「編集は必要ながら、それらは口調の部分であって、正確さを直すものではない」という。
■視覚障害のあるクラウド工学者
クラウド工学者のラウル・トレヴィーノ氏は、視覚障害があるため、コンピューターに搭載されている支援機能を使っている。オンライン検索する際には、画面上の文字を読み上げるスクリーン読み取り機能を使うが、ウェブサイトのなかにはそれに対応していないページも多い。
同氏は2023年に、情報を読んで処理する作業に生成人工知能を併用し始めたところ、はるかにすばやく作業できるようになり、目への負担も減ったと話す。何を探しているかをツールに言うだけで、「非常にクリーン」な統一的フォーマットで結果が返ってくる。「はるかに簡潔でストレスを感じない」と同氏は語っている。
■映画業界のアーティスト
映画や宣伝のための図解画やストーリーボード(場面の概念を絵と台詞で視覚化)をつくる37歳のサム・タン氏は、映画業界でこの種の職種に就く人たちが生成人工知能の脅威をもっとも感じている、と話す。生成人工知能ツールが、文章のプロンプトにもとづいて写実的な画像や動画を生成できるようになったためだ。ある監督が生成人工知能でつくった画像を参考資料として送ってきたことがある、と同氏は話す。
タン氏は、そういった潮流にあらがうために、「ナイトシェイド(Nightshade)」と呼ばれるプログラムを使っている。シカゴ大学のコンピューター科学研究者ベン・ザオ氏が開発した同プログラムは、ピクセル・レベルで画像を変更することで、人間の目には普通に見えるけれども人工知能モデルには歪曲した情報を伝えることができる。同プログラムで変更を加えた画像を使って訓練した人工知能モデルは、やがて使いものにならない画像を出力するようになる。「同プログラムはありがたい存在だ」「同時に、自分の作品を保護するためにナイトシェイドを使うのが普通になるとは残念なことだ」とタン氏は述べた。
(Gaean International Strategies, llc社提供)
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