人工知能代理人(エイジェント)は、人工知能の業務用途としてもっとも注目される分野になっている。実際に活用している5社の事例をウォール・ストリート・ジャーナルが紹介した。
▽生産性の向上とセキュリティー懸念
セールスフォース(Salesforce)やサービスナウ(ServiceNow)、マイクロソフト(Microsoft)、ワークデイ(Workday)はいずれも、独自の人工知能能代理人を最近にあいついで発表した。それらは、顧客対応や人材資源管理、販促、情報技術の管理といった業務の自動化を支援する。
この種の技術が利用側の意図したとおりに機能するのであれば、生産性が向上することは間違いない。しかし、その一方で、サイバーセキュリティーをはじめ、さまざまの問題が増える可能性もある。
調査会社のガートナーでは、日常的な業務の意思決定の15%以上が2028年までに人工知能代理人によって自動的にくだされるようになると予想する。それと同時に、情報漏えいや不正侵入の25%が人工知能代理人の悪用に関連したものになる、とガートナーはみている。
人工知能代理人をすでに使っているおもな5社とその用法を以下に紹介する。
1.ジョンソン・エンド・ジョンソン
製薬大手の同社は、創薬過程で化学物質の合成を効率化するために人工知能代理人を使っている。有望な分子を特定したのち、コスト効果や信頼性を測定する必要があり、それには温度管理や最適化すべき化学反応といった多数の変数が関与する。人工知能代理人は、分子を結晶化するための溶剤を交換するタイミングを見計らうために使われている。
手作業を減らせる一方で、人工知能の偏見やいわゆる幻覚といったリスクには注意する必要がある、と同社のジム・スワンソン最高情報責任者は説明している。人間の監督をどのように体系的に実践するかが現時点におけるおもな課題の一つだという。
2.ムーディーズ
ムーディーズでは、金融関連の調査や分析において人工知能代理人が欠かせない役割りを果たすようになっている。同社は、証券取引委員会(SEC)への申告書類での業界比較の作業を国外業者に委託していたが、いまではその一部を人工知能代理人で自動的に行うようになった。
同社は、これまでに35種類の人工知能代理人を開発しており、小規模の仕事をこなす代理人をほかの代理人が監督する「マルチ・エイジェント・システム」として運用する部分もある、とニック・リード最高製品責任者は説明している。
人工知能代理人に独自の性向やデータへのアクセスをあたえる結果として、複雑な主題の場合には、複数の人工知能代理人が異なる結論を出すこともある、とリード氏は説明している。
3.イーベイ
同社では、コード書きと販促キャンペーンの作成に人工知能代理人を使っている。今後は、サイト上で商品を売買する利用者らを支援する人工知能代理人も導入予定だ。
それらの取り組みでは、独自の「エイジェント・フレイムワーク」を作成して、複数の大規模言語モデルを使っている。それがオーケストレーション(複数のシステムやアプリケーション、サービスを調整して自動的に実行する技術と手法)の担い手として機能し、どの人工知能モデルを使うかを指示する。
人工知能代理人が洗練されるにつれて自律性を高めるだけでなく、「従業員らの具体的な好みも学習する」と、ニザン・メケル・ボブロフ最高人工知能責任者は説明している。
4.ドイツ・テレコム
ドイツに約8万人の従業員を擁する同社は、社内規程や福利厚生に関して従業員らの質問に回答する人工知能代理人を導入した。また、サービス担当者が自社の製品やサービスについて質問できる代理人もある。使用者数は週あたり約1万人だ。また、それらの人工知能代理人を使って有給休暇を人材資源管理部に申請するといった機能も実験しつつある。
5.コンセンティーノ
住宅および建物向けの石材を製造するスペイン拠点のコンセンティーノ(Consentino)は、顧客サービス担当者らを支援する人工知能代理人を導入した。一定の技能を最初から持っている必要があることや、実際に業務に導入する時点で訓練(技能研修)が必要になることから、同社では人工知能代理人を「デジタル・ワーカー」(デジタル労働者、デジタル労働力)と位置づけている。
以前には顧客注文の確認作業に3〜4人の担当者を配置していたが、いまでは人工知能代理人がその作業を完全に肩代わりするようになり、それらの従業員たちが別のサービス領域に集中できるようになった、と同社は説明している。
(Gaean International Strategies, llc社提供)
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