デラウェアとテキサス、企業の法的拠点誘致で火花

企業がどこよりも法人登記をしたがる州になろうと、デラウェアとテキサスが争っている。

◇デラウェアの地位揺らぐ

ロイターによると、デラウェア州は最近まで、会社を設立する際に有利な場所として誰もが認める州だった。実際に事業の拠点が置かれる例は少ないものの、税制上の優遇や企業に優しい州法の恩恵を受けようと大企業の多くがデラウェアで法人登記を行っており、州の歳入の20%以上は企業からの手数料が占めている。

しかし2024年、ビジネス紛争を取り扱うデラウェア州衡平法裁判所(Court ofChancery)の判事が、電気自動車(EV)大手テスラのイーロン・マスクCEOに対する560億ドルの巨額報酬パッケージを無効と判断。マスク氏はこれを機にテスラの本拠地をテキサスへと移転し、他社にも同調を呼びかけたため一部の企業がデラウェアから離れ始めた。州の有力者たちはそれが 「DExit (脱デラウェア)」と呼ばれる企業の大規模流出に発展することを懸念。州議会はこの2月、会社法の大幅な改正を提案した。

◇法改正で企業の不安解消

この法案は、支配株主が関与する取引(支配株主の事業を買収する取引や株式クラスの再編など)に関して、特定の要件を満たせば訴訟の対象とならない「セーフハーバー」を設けている。ただし、支配株主によるその企業の買収には適用されない。

また、ある取引が、独立取締役が過半数を占める委員会または利害関係のない株主の投票によって承認されれば、その取引は裁判所で審査されることはない。現行法ではそれら両方の手順を踏まないと訴訟を回避できず、委員会はすべて独立取締役で構成される必要がある。

法案はさらに、取締役の独立性を争うことを難しくし、「支配株主」の定義を明確化して、株主が取引の利益相反を調査するために利用できる記録を制限している。

新法案の狙いは、ウォール街の企業買収専門家らに、支配株主が関与する取引を合法的に構築できるという確信を与えることにある。法案支持者らは、株主の利益保護にもつながると主張している。

ただし法案反対派は、これを「億万長者優遇法案」と呼び、メタ(旧フェイスブック)のマーク・ザッカーバーグCEOのような強力な支配株主を優遇し、一般株主が利益相反を監視しにくくすると批判している。メタは脱デラウェアを検討していると報じられている。

◇テキサスでも対抗法案の動き

一方、テキサス州議会は3月12日、いわゆる「ビジネス・ジャッジメント・ルール(取締役会が独立した立場で誠実に意思決定を行った場合、その判断が誤っていたとしても責任を問われない規則)」を州法に明文化する法案(下院法案15)を審議した。同法案はまた、派生訴訟(投資家が会社の利益のために取締役を訴える訴訟)の提起資格を、自社株の3%以上を保有する投資家に限定している。デラウェアで起きたマスク氏の報酬をめぐる問題は、わずか9株を所有する投資家が起こした派生訴訟だった。

テキサスのグレッグ・アボット知事(共和)は、法案が可決されれば署名すると表明している。今のところ同州に法人登記する大企業は多くないが、法案を提出したモーガン・マイヤー下院議員(共和)は「この法案はテキサスを法人設立に最適な州にする」と話している。

(U.S. Frontline News, Inc.社提供)

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