人工知能代理人が個人の資産を管理する日はすぐそこに 〜 金融会社内向けにも個人向けにも性能が向上

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、技術業界と金融業界の幹部らは、人工知能代理人(エイジェント)が個人の資産管理をそれほど遠くない将来に代行するようになるとみている。本稿では、同技術が金融サービス業界にもたらす変革について前編と後編に分けて解説する。

▽面倒な作業を仮想執事が代行へ

個人資産を自分で管理する人たちにとって、一連の作業の煩雑さはこれまでつねに課題であり続けてきた。さまざまのウェブサイトやアプリケーションにアクセスして、複数の投資口座や年金口座を管理しなければならない。それぞれに株式や債券、現金といった複数種の資産の運用と管理があり、それらの均衡をつねに確認しては定期的に調整する必要がある。

そういった負担を軽減するために資産運用助言者を雇っている人も多いが、それは富裕層にかぎられる。安全な人工知能アシスタントが実現すれば、面倒な作業を任せることが可能となり、仮想執事が顧客の代わりにそれらの作業を実行するようになる日が近い将来に到来すると予想される。

▽ヴァンガードのCIO、「疑いの余地はない」と明言

「個人的な人工知能アシスタントが助言を提供するようになることに疑いの余地はない」と、資産運用サービス大手ヴァンガード・グループ(Vanguard Group)のナイティン・タンドン最高情報責任者は明言する。

資産運用やそれらの管理は始まりにすぎない。「人工知能代理人の能力は、まもなく金融サービス業界に遠大な影響をおよぼす水準に達するだろう」と、ケンブリッジ大学の研究者ブライアン・ザン氏とキーラン・ガーヴィー氏は2025年6月に話した。

たとえば、人工知能ツールが利用者の銀行口座とクレジット・カードの残高を確認して、利用者に提案するまでもなく最適の返済方法を実行し始める可能性がある、とザン氏とガーヴィー氏は説明している。

▽安全性重視で広範での活用には慎重

ただ、人工知能が暴走する可能性の懸念から、開発中のツール群の多くは、現時点では一般に広く提供されていない。

ヴァンガードの場合、営業時間後に限定して顧客対応する音声対話型チャットボットを導入している。同チャットボットは、顧客らの満足度調査において高い評価を得ているが、その活用範囲の拡大については安全性の観点から同社は慎重だ。

ヴァンガードはまた、社内のコンテント・ライブラリーから情報を取得して、読者(顧客)層の知識水準に応じた記事(たとえば市場動向分析報告)を書く生成人工知能ツールも導入した。そのほか、顧客らの金融資産群を吟味して助言を提供するツールも現在開発中だ。

▽助言者らはすでに活用

ヴァンガードは米国内に5000万人の顧客を持っている。「5000万人に資産運用助言者を提供しようとしても、そもそも十分な人数の助言者が存在しない」「しかし、人工知能を使えば、はるかに多くの人たちに助言サービスを拡大できる」とタンドン氏は話す。

とはいえ、人間の助言者が不要になると考える人は皆無だ。人間関係や信頼関係を機械で再現するのは難しい。それでも、人工知能が業界に抜本的変革をもたらすことは確実だ。助言者自身らは、ノートをとったり金融資産群を分析したりするために人工知能ツール群をすでに使っている、とタンドン氏は話している。

▽ブラックロック、従業員向け仮想執事を導入

資産運用サービス大手のブラックロック(BlackRock)は2025年夏に、資産分析業務を支援する人工知能アシスタント「アシモフ(Asimov)」を導入した。アシモフは従業員らに非常に喜ばれている、と最高執行責任者のロブ・ゴールドスタイン氏は話した。

同氏によると、アシモフは、投資分析家たちが通常行っている作業の多くに対応する。たとえば、規制当局への申告書類やそのほかさまざまの報告書の分析をはじめ、大量のデータを取り込んで外れ値を見つけ出すことや、ソーシャル・メディアやニュースの動向を継続的に追跡して投資先企業に影響しそうな出来事を把握する、といったことが可能だ。また、アシモフが生成する洞察は、人間による評価を待たずに金融モデルに直接的に供給される。「資源を配分する必要がない。すべての業績報告会議に出席し、すべての場所に行き、すべてのことを見られる」とゴールドスタイン氏は説明した。

▽イートロ、売買を実行する人工知能ツール群を顧客に提供

一方、証券会社のイートロ(eToro)は8月に、顧客向けに一連の人工知能ツール群を提供開始した。同ツール群は現時点では、投資経験が豊富な一部の顧客のみに提供されている。

同社の人工知能ツール群は、個人投資家らが人工知能を使って具体的な投資戦略のコードを書き、その戦略にもとづいて実際に株式や債券の売買を実行させることができる。それは、ヘッジ・ファンド会社らが使っている定量的な戦略に似ている。売買を実行できる人工知能代理人(エイジェント)が個人顧客に提供されている数少ない事例と言えるだろう。

▽管理作業の支援と助言も可能に

イートロはさらに、自社のアプリケーションに人工知能アシスタント「トーリ(Tori)」を追加し、さまざまの作業の支援と助言を提供できるようにした。

同社のヨニ・アシアCEOによると、トーリは現時点ではイートロのアプリケーション内の機能と位置づけられるが、将来的には他社製アプリケーションとも連動する見通しだ。

「人工知能は比較的近未来に、利用者らの資産と債務をすべて把握するようになるだろう。接続されたすべての口座にわたって助言を提供し、取り引きを実行できるようになる」と同氏は話した。

▽「高水準の自律性はリスクをもたらす」

金融サービス大手らはそれでも、責任リスクと技術活用の後れによるリスクの均衡をとる必要がある。人工知能代理人が取り引きを誤実行したり、過度にリスクの高い投資および資産運用助言を提供したりした場合の打撃がきわめて大きいためだ。

だからこそヴァンガードのようなブランド志向の金融大手らは、人工知能助言ツールの提供に慎重で、強力な防護策を備えたシステムを導入している。

「高水準の自律性はリスクをもたらす」と、ケンブリッジ大学の研究者であるブライアン・ジャン氏とキヤレン・ガーヴィー氏は指摘し、「金融機関と規制当局は、(投資家保護の観点から)安全対策が確実に講じられていることを確認する必要がある」と述べた。

(Gaean International Strategies, llc社提供)

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