SAP、ハナをビジネス・スイートに統合へ 〜優位性維持の付加価値戦略

 SAPは、大容量データをサーバーのメモリー内でリアルタイムに処理するインメモリー電算技術のハナ(HANA=High-Performance Analytic Appliance)システムを中心とする次世代の分析機能を同社の中核製品にしようと、その強化を積極化させている。

 ハナは、別のデータ・ウェアハウスにデータを保存するのではなく、強力な演算処理システムとデータベースをメモリー内に統合することで、データ分析の幅と速さを大幅に向上させた画期的システムとして、好評を得ている。ハナはすでに200ヵ所以上の顧客オフィスに導入されている。

 2012年7月にハナ導入を完了した酒類販売大手のチャーマー・サンベルト・グループは、ハナのおかげで配送の遅れといった物流上の問題が発生した場合にも即座に対応できるようになった、とその効果を話す。

 「以前であれば2〜3人がかりで3日かけて作成していた倉庫状況の報告書を20〜40秒で作成できるようになった」と、同社のポール・フィップス最高情報責任者は強調。

 ウォール・ストリート・ジャーナルによると、SAPの次のステップは、ハナを自社の「ビジネス・スイート」に統合することだ。同社のハッソ・プラットナー会長は、その統合アプリケーションを2013年2月までに出荷する計画だったが、現時点では分析製品担当のスティーブ・ルカ上級副社長が「2013年中」と説明している。

 ほかのアプリケーションへのハナの統合は、SAPにとって重要だ。新興企業がはるかに安い価格で分析技術を提供しており、SAPは同市場での優位性を守るために、付加価値を生み出す必要がある。

 顧客の間ではハナ技術の潜在性に対して期待が寄せられるが、一方で価格の高さを懸念する声もある。SAPでは、ハナの価格として、既存のビジネス・スイートのライセンス料金の15%と説明している。

 つまり、ビジネス・スイートのライセンスを100万ドルで購入した企業は、ハナを統合するために15万ドルを追加で払うことになる。巨大企業以外には導入できる価格帯ではない。

 また、ハナを動作させるためのハードウェアにも数万ドルから数十万ドルのコストがかかる。さらに、ビジネス・スイートとハナを合わせた年間維持管理料はライセンス料金とハナ料金の合計の約22%だ。

 SAPでは、最終的に他社のデータベースやアプリケーションとハナを併用できるようにしたい考え。しかし、業務用ソフトウェア業界内には、ハナがSAP製品でしか適切に機能しないのではないかという懸念も根強い。

 ガートナーの業界専門家ドナルド・ファインバーグ氏は、分析データベースを取引システムのなかに取り込むことは「ハナだけができて、他社にはできない点だ」と話しており、現時点では、高額と言えどもハナの競争力は安泰だ。

 しかし、リアルタイム分析ソフトウェアは、オラクル(Oracle)やマイクロソフト(Microsoft)、テラデータ(Teradata)も手がけており、それに加えて新興企業も台頭しつつあり、技術革新の素早いIT業界においてハナがその地位をいつまで保持できるか油断はできない。

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