反テロ「裏扉」義務化法案をめぐり政治家と技術業界が対立

 自称イスラム国(Islamic State in Iraq and Syria=ISIS、アイシス)によるパリ連続テロ攻撃を受けて、米国では一部の連邦議会議員らとシリコン・バレーのあいだでセキュリティー議論が再燃している。

 議員らは、俗にいう「裏扉(back doors)」をオンライン・サービスやアプリケーションに設けることをシリコン・バレー大手の要人らに要求している。裏扉は、警察が暗号を解読してテロリストらを特定し摘発するのに役立つ仕組みだ。しかし、シリコン・バレー要人らはその要請に反発している。

 裏扉議論は、元CIA職員のエドワード・スノウデン氏が米政府諜報機関による個人情報傍受および監視の手法を暴露したことで浮上したが、その後いったん落ち着き、今回のパリ攻撃でふたたび強まった。

 インターナショナル・ビジネス・タイムズによると、ダイアン・ファインスタイン上議(民主、カリフォルニア)は先日、MSNBCに出演して、アイシスと戦う各国にシリコン・バレーが協力していない、と米技術業界を厳しく批判した。

 「わたしはシリコン・バレーに行って業界大手の何人かの法務顧問たちと実際に会って協力を求めたが、応じた人は一人もいなかった」と話した。

 「シリコン・バレーの企業たちは、自分たちの製品やサービスを見直すべきだ」「邪悪な化け物のようなテロリスト連中が子どもたちを斬首し、無実の市民たちを虐殺する攻撃を計画するための連絡手段に自分たちの製品やサービスが使われていることに責任を持つべきだ」。

 シリコン・バレーはそれに対し、各種のオンライン・サービスやツールに裏扉を設けることを義務付ける法案を提出しないよう、穏健派の議員らに呼びかけ、ファインスタイン上議を筆頭とした推進派の動きに対抗している。

 技術大手らによると、裏扉を設けると利用者データの保護が弱体化され、利用者データの漏えいや流出の危険性が高まる。

 「今回のようなテロ攻撃を受けて強まったそういった公共政策議論というのは、非常に難しい問題だ」とブラウザーのファイヤーフォックスを開発するモジラ(Mozilla)のクリス・ライリー公共政策担当幹部は話す。

 モジラのほか、アップル(Apple)やグーグル(Google)、フェイスブック(Facebook)、ツイッター(Twitter)、ヤフー(Yahoo)、マイクロソフト(Microsoft)を含む米技術大手らは5月に、バラク・オバマ大統領に書簡を送り、裏扉を義務付ける法案が出てきたとしても署名しない姿勢を示すよう要請している。

 シリコン・バレーでも、テロ攻撃を阻止したいと考えているものの、裏扉によって利用者データが危険にさらされ、利用者離れが誘発されると、事業が成り立たなくなる、と各社は危機感を持っている。

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