米国のMBA課程、人工知能分野の教育を積極化 〜 会社で求められる技能に学生側も関心を強める

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、米国各地の経営大学院は昨今、経営学修士(Master of Business Administration=MBA)課程の学生らに人工知能の技能を教える努力を積極化している。

▽人工知能を使う課題を出す教授たち

ペンシルベニア大学経営大学院のイーサン・モリック教授は、人工知能を使って自分らの作業を自動化するという課題を学生たちに課した。「自分の存在意義に危機感を感じるほどにならないかぎり、人工知能を使ったとは言えない」と同教授は話している。

また、アメリカン大学の経営大学院では、人工知能について取り上げる20講座を新規開講または更新して教える予定だ。新科目は法廷会計学や販促学の課程において2025年から教えられる。

アメリカン大学経営大学院の教授陣はまた、人工知能ツール群の使い方を指導するための研修を4月初旬から開始した。

▽ベンチャー・キャピタリストの講演を機に人工知能講座を編成

アメリカン大学の経営大学院では、ベンチャー・キャピタル投資会社スウィフト・ベンチャース(Swift Ventures)のブレット・ウィルソン氏による学生向けの講演を2023年12月に開催した。同氏は、集まった学生らに向けて、「ここにいる学生は人工知能に職を奪われることはないかもしれないが、その使い方を知っているほかの人に職を奪われる可能性がある」と話した。

デイヴィッド・マーチック学部長はその講演後にMBA課程内容の見直しに乗り出した。同校が用意した新しい人工知能関連の講座には、テキスト採掘(マイニング)や予想分析、交渉のためのチャットGPTの使い方といったさまざまの科目が含まれている。そのほか、人材資源管理業務や娯楽業界での人工知能の活用法を取り上げるものもある。

▽人工知能を学ぶことは欠かせないと考える学生が増加

人工知能関連の技能を指導するMBA側の姿勢は学生から歓迎されている。雇用主がその種の職能を要求するようになっているためだ。大学院入学管理評議会(GraduateManagement Admission Council)がMBA候補生を対象に実施した調査では、回答者の40%がMBA取得に際して人工知能について学習することが欠かせないと回答し、2022年の29%から大幅に上昇した。

経営大学院の教授らは、いまでは生成人工知能の使用を学生に奨励するようになっている。すばやく総合的に考えて名案を出すために人工知能を使うべきだ、とコロンビア大学経営大学院のシーナ・アイエンガー教授は自著で説いている。ただ、正しい質問を問いかけ、すぐれた意思決定をくだすことはなおも人間の仕事だ、と同氏は強調している。

同教授が学生らに課している演習の一つは、トム・ブレイディー(偉大な元NFL選手)やマーサ・スチュワート(有名人)、バラク・オバマ(元大統領)の視点から見て魅力的に見える事業案を提案することだ。同じ案でも受け手によってどのように提示すべきかを考えさせるための課題だ。

▽生成人工知能を使うことでコツを学ぶ

コロンビア大学MBA課程の学生ブレイク・バージェロン氏は、昨秋の課題で新規事業案のブレーンストーミングに生成人工知能を使用した。返ってきた案の一つが、潜在顧客のソーシャル・ネットワークにもとづいて行き先を推薦する旅行サービスだった。同氏の班は、その案の長所と短所を生成人工知能に尋ね、さらに考えられる事業モデルを出すよう生成人工知能に求めた。

バージェロン氏らは、その課題に取り組むなかで、人工知能の弱点も感じたという。たとえば、同旅行サービスの販促方法を生成人工知能に聞いたところ、非常に似た案がいくつも返ってきた。バージェロン氏の班はそのため、意外性のある質問を一つずつ聞くことで、生成人工知能ツールの創造性を引き出す必要があったという。

聞き方によって回答の質や量が大幅に違うのは、生成人工知能チャットボットの特徴かつ課題だ。それと同時に、その効果的使い方を知っている人とそうでない人では生産性に開きが出る。

▽人間は思考力や創造性に頭と時間を使うべき

ノースウェスタン大学経営大学院でデータ分析について教えるロバート・ブレイ氏は、自分が使っている教科書の内容に関することであれば、チャットGPTがほぼすべての質問に答えられることに気づき、講座内容を修正した。

同氏は、大規模言語モデルを使ったコーディングの指導に重点を置いた講座を2023年に提供したところ、学生数が21人から55人に増えたという。機械が得意とする情報採掘といった作業に人間が多くの時間を使うのではなく、批評的思考や創造性、材料にもとづく論理的判断とその思考に頭と時間を使うべきというのが講師陣の考えだ。

できるだけ多くのことを人工知能にやらせて自分の作業を減らすよう同氏は学生らに奨励している。人工知能を「本当に凄腕の研修生」のようにあつかううべきだ、と同氏は話している。

(Gaean International Strategies, llc社提供)

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