イマージョンプログラムとは?

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

アメリカ在住者で子どもがいる方なら「イマージョンプログラム」という言葉を聞いたことがあるかもしれない。私が初めてその言葉を聞いたのは、25年前に遡る。ロサンゼルス近郊にあるカルバーシティに英語と日本語のイマージョンプログラムの小学校があると聞き、取材に訪れたのだ。

英日のイマージョンプログラムの場合、たとえば午前中は英語で授業を行うと、午後は日本語にスイッチして授業が行われる。ここで重要なのは、「外国語としての日本語を学ぶ」授業ではなく、「日本語を使って授業を学ぶ」ということだ。算数や理科を日本語で学ぶことになる。

25年前、私は授業を1日中見学したのだが、印象的だったのはクラスの半分近くが非日系だったこと。英語から日本語に言語が変わっても彼らにとっては日々のことなので当然だろうが、児童たちが戸惑うことなく平然と授業を受けていたことだ。さらに、授業が終わると白人の男の子が日本人の教師に「先生、さよなら」とまったくアクセントのない日本語で挨拶して帰っていったことも忘れられない。「ネイティブとしての言語能力は9歳までに身につく」といわれる「9歳の壁説」を実証するように、家庭で日本語を話さない子どもたちであっても、小学校から日本語で学べば自然な日本語が習得できるということを目の当たりにした経験となった。

日英の環境が半分ずつ

その後もイマージョンプログラムの取り組みはロサンゼルス近辺では継続されている。そして先日、グレンデール統一学区における英日イマージョンプログラムの2024年度入学希望の保護者向け説明会を見学させてもらう機会に恵まれた。

イマージョンプログラムがグレンデールで始まった背景や申請時期、課される日本語テストなどの説明が行われた後に、参加した保護者が「私の家庭では英語とスペイン語を話しています。日本語環境はありません。しかし、せっかく学区内の小学校に外国語を習得できるイマージョンがあるなら子どもを挑戦させたいと思います。ただ、日本語がまったく話せないのにそのようなプログラムに子どもを入れても大丈夫だろうか、正直不安です」と率直な気持ちを打ち明けた。

学区側は「イマージョンプログラムは英語と英語以外の言語で授業を行うだけでなく、児童生徒もまたネイティブスピーカーとノンネイティブスピーカーとの混合です。日本語を話す子どもが話せない子どもと交流し、助け合い、教師や職員がサポートする体制が敷かれているだけでなく、彼らは心から子どもたちを励まし応援したいという気持ちで取り組んでいるのです」と回答した。

日本語で授業を行う私立校なら他にもあるが、カルバーシティやグレンデールのイマージョンプログラムを持つ学校はカリフォルニアの法律に則った公立の現地校だ。そして、英日のイマージョンプログラムのアドバイザーを務めるUCLA日本語学科の高倉あさ子先生にも話を聞いた際の、彼女の次のような言葉が私の心に残った。「アメリカ赴任に帯同してお子さんを現地校に入れる際、親御さんは『英語の学校に入れれば子どもはすぐに順応して英語を習得する』と思いがちですが、実はお子さんには大きな負担がかかります。日本語と英語の環境が半分ずつのイマージョンプログラムなら、お子さんが自然にアメリカの学校に順応していけるかもしれません」。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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