アマゾンや小売大手ら、頻発する返金詐欺で巨額の損害 〜 詐欺集団ら、ティックトックで協力購入者たちを募集

CNBCによると、ティックトックに代表されるソーシャル・メディアを悪用した「返金詐欺(返品詐欺)」がアマゾンやイーコマース大手らに巨額の損害をもたらしている。本稿では、詐欺集団らが返品をいかに悪用し、一般人らをどのように共犯者に仕立てあげているかについて解説する。

▽テネシーのアマゾン倉庫で摘発

2023年5月4日の深夜前、テネシー州チャタヌーガにあるアマゾン(Amazon)の倉庫で起きた窃盗事件に警察が出動した。警官らを出迎えた現場の紛失防止担当者は、容疑者と思われるノア・ペイジという倉庫作業員に警官たちを案内した。

CNBCが入手した警察報告書によると、ペイジ容疑者は、実際には返品されていない商品の注文記録を社内システムで返品済みとマークしたことを認めた。報告書によると、ペイジ容疑者は、詐欺に協力する報酬として3500ドルを受け取ったという。

ペイジ容疑者は、その詐欺行為の首謀者を知らなかったため、「ラルフ」と呼んでいた。ラルフはレック(Rekk)という詐欺集団の一員であるこが捜査によって判明した。レックは小売大手らを標的とする返金詐欺専門の犯罪組織で、利益の一部を約束することで小売会社従業員たちを引き込み、詐欺に加担させていた。

▽詐欺サービスをソーシャル・メディアで販促

小売会社をねらった返金詐欺は、詐欺集団らがティックトック(TikTok)やテレグラム(Telegram)、レディット(Reddit)やといったソーシャル・メディアで詐欺サービスとして販促するほど浸透している。

ティックトックで「返金方法(refund method)」や「返金(r3fund)」(投稿コンテント監視担当者たちの目をごまかすために、refundの代わりにr3fundというタグが付けられている)と打てば、山積みされた現金や高級スニーカー、アイフォーンを見せびらかす動画が表示される。

それらの動画は、オンライン小売会社から返金を騙し取る行為を代行するサービスを売り込む内容だ。詐欺集団らはそうやって詐欺材料提供者(返金詐欺に協力してもいいと了承する購入者)を発掘している。

▽購入者と小売会社従業員を引き込み架空返品

典型的な手口は、買い物客がオンラインで商品を購入し、注文情報をレックのような詐欺集団に知らせると、犯人らは購入者を装って返金を要求する。アマゾンは購入者に返金し、購入者は犯人らに返金額の通常15%から30%をペイパルやビットコインで払う。つまり、購入者は商品を大幅な割り引き価格で購入できるということだ。

ただ、小売会社は、返品が確定しなければ返金しない。そこで次の段階がある。詐欺集団は、当該小売会社の現場作業員を買収し、返品されていない商品を返品されたことにするよう指示する。その際、犯人らは、当該作業員が返品としてスキャンした商品バッチに対して一定額の報酬を払う。

したがって、一般的な返金詐欺の手口は、返金詐欺に自分の購入が悪用されることに同意する購入者と、小売業者の社内システムを使って当該注文を改ざんできる現場作業員という共謀者を必要とする。

▽産業化した返金詐欺

返金詐欺は一つの産業になりつつある。小売大手や法執行機関は、そういった動きを2023年に把握し始めた。

ミシガン州のサジェド・アル・マレジ容疑者は、50以上の小売業者を標的にした「シンプル・リファンズ」という返金詐欺サービスを運営していた容疑で2023年秋ごろに逮捕され、起訴された。罪状は、犯罪共謀と電信詐欺、郵便詐欺だ。

その翌月には、アルテミス・リファンド・グループ(Artemis Refund Group)という返金詐欺サービスを運営していたオクラホマ州在住の男10人が起訴された。

そのほか、アマゾンやウォルマートを含む小売大手らを標的としたケプトシークレッツ(KeptSecrets)という返金詐欺サービスを運営していた24歳の英国人の被疑者が12月に詐欺罪で有罪判決を受けた。

▽ゆるい返品受け付け過程につけ込む

オンライン詐欺専門家らによると、返金詐欺集団は、小売会社らのゆるい返品受け付け方針につけ込んでいる。全米小売業協会(National Retail Federation=NRF)とアップリス・リテイル(Appriss Retail)の調査によると、小売業界は2023年に返金詐欺によって1010億ドル以上の被害を受けた。

アマゾンは12月に、レックに加担したペイジ容疑者を含む47人の共犯者を相手取って、数百万ドル相当の商品群を盗まれたと訴え、訴訟を起こした。

同社は、「返金手続き過程を悪用して金銭的利益を得ようとする犯罪行為であり、コスト増や在庫減少、真の顧客に悪影響をおよぼすサービス中断といった損害を負わされた」と同社は訴状のなかで訴えた。

▽アマゾンの現場作業員、有罪を認める

アマゾンの広報担当者によると、同社は返金詐欺を検知かつ防止する専門部隊と機械学習ツールによって、同問題に「正面から」取り組んでいる。法執行機関との協力が容疑者の逮捕や対小売会社組織犯罪集団の検挙と解体、損害賠償民事訴訟につながっている、と広報担当は話した。

アマゾンのチャタヌーガ倉庫で逮捕されたペイジ被疑者は、レックが同社から総額6万ドル以上の返金を騙し取った詐欺に協力した疑いで送検された。同被疑者は2023年11月に、司法取り引きで有罪を認め、3年間の保護観察処分と同社への5000ドルの損害賠償を命じられた。

▽会社組織のように運営する詐欺集団ら

しかし、小売会社をねらった返金詐欺は横行している。暗号化メッセージング・アプリケーションのテレグラムで販促活動を展開している詐欺集団らがそれぞれ数千人のフォロワーを獲得していることが確認されている。

それらの返金詐欺集団らは、アマゾンのほかアップルやナイキ、イーベイ、サックス・フィフス・アヴェニュー、ラルフ・ローレンといった高額商品を多数あつかう小売大手らを頻繁に攻撃している。

一部の詐欺集団は、ドアダッシュやウーバー・イーツの注文者に返金詐欺サービスを売り込み、「無料でなんでも食べ放題」と宣伝している。

返金詐欺集団らは高度に組織化され、顧客(詐欺協力者)サービスまで提供し、注文の目録を作成し、偽の配送レイベルもつくるといった徹底ぶりで、あたかも会社組織のように運営されている。指南書をオンライン販売する集団もあるほどだ。

▽未配達の虚偽報告や郵送詐欺といった手口も

返金詐欺の手口は、返品していない商品を返品されたことにして返金を騙し取る以外にも、商品が届いていないと主張することで返金させる手口もある。レックの犯行に協力したある購入者の場合、アップルからの購入品が届かなかったと偽って警察に被害届けを出し、それをアップルに提示することでマックブック・エアー2台分の返金を騙し取った。

そのほかにも郵送詐欺という手口がある。購入者が小売会社の返品フォームに記入しても実際には購入品を送り返さず、その代わりに空箱やがらくたでいっぱいの箱を送るというものだ。

シンプル・リファンズの犯行では、UPSとUSPS(米国郵政公社)の従業員を買収し、荷物の追跡履歴を操作したり、偽の「差し出し人へ返送」通知を入力したりして小売業者を騙し、商品が届かないあるいは間違った住所に送られたと思い込ませて返金を騙し取った事例が裁判所への提出書類に書かれてある。

▽小売会社側の弱点につけ込んだ犯行

アマゾンは、自社の現場作業員や配達サービス担当者らに賄賂を払って買収する詐欺集団らにいかに対抗できるかに取り組んでいる。同社はその一環として、弁護士や元検察官、組織的返金詐欺専門分析家らで構成される顧客保護および執行班を社内に設置した。

同社はまた、第三者販売者の機密データを漏らす見返りとして賄賂を受け取った従業員らを解雇した。

返金詐欺を研究するサイバーセキュリティー専門家シリル・ノエル=タゴエ氏は、低賃金労働者たちが買収されて詐欺に協力するという構造について、小売業者らにとって永遠の課題だと指摘している。さらに、返金手続きを厳格化しにくいという小売会社側の事情もある。返品と返金の手続きを厳格にすれば購入者離れを引き起こすことから、小売会社らはその手続きをできるかぎり簡素化することで利用者の獲得と維持に努めている。返金詐欺集団らはそこにつけ込んでいる。

▽対抗策を強め始めるイーコマース業界

しかし、返金詐欺の横行を受けて、小売会社側の姿勢に変化が見え始めている。NRFのデイヴィッド・ジョンストン副会長(資産保護&小売業務担当)によると、不正利用や詐欺行為に対応するために「返品方針を厳格化」する小売会社らが増えている。

たとえば、配達員らは荷物を目的地に運んだ時点でその様子を撮影し、配達完了の証拠を残すよう奨励されており、小売業者は返品を分析する際に不審な行動がないか、よりくわしく調べるようになっている。

「店頭での返品回数を監視している小売業者もある。返品回数が多すぎると、その人物からの返品を一時停止する場合もある」「最近ではイーコマースでもそのような動きが強まっている」とジョンストン氏は述べた。

(Gaean International Strategies, llc社提供)

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