シリーズ世界へ! YOLO⑧
眩々(くらくら)ドバイ紀行

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

この10年でこれほど大きく変身した都市は、ほかにない。「アメリカンドリーム」ならぬ「アラビアンドリーム」を抱いて、世界中から労働者がやってくる。その数は人口の8〜9割にも達する。ペルシャ湾南岸の砂漠に、ニョキニョキと伸びる中東のマンハッタン。それは砂上の楼閣か、それとも日米欧に取って代わる新たな世界経済の旗印なのか──。摂氏45度を超す灼熱のドバイを訪れた。

 

Courtesy of DTCM North America

Courtesy of DTCM North America

世界最高の天頂都市が誇示する
夢と野望と生命力

 
poem
 
 世界一の高さを誇るタワー「バージュ・カリファ」(Burj Khalifa)の足元には、宣言にも聞こえるこんなポエムが添えられている。
 高さ828メートル。人類が初めてつくった200階建てのビルである。頂上では、時速198キロの風が吹くという。
 アラブ首長国連邦(UAE)に咲く花びらに見立てたデザイン。2万8601枚のガラスのパネルが、タワー全体をカバーする。太陽を浴びてキラキラと照り返すその勇姿は、95キロ離れた砂漠からも望むことができる。
 映画「ミッション・インポッシブル4」で、トム・クルーズもぶら下がった。
 80以上の国から集まった1万2000人の技術者や労働者がつくった。竣工からわずか5年で完成し、2010年7月にオープン。建設に携わった功労者の顔ぶれを紹介する写真パネルには、UAE、インド、中国、韓国といった「新興国」の面々が連なる。
 「お飾り」ではない。中には、オフィス、レジデンス、ホテル、ショッピングモール、フィットネスクラブなどが入居している。レストラン、モスク、プール、すべてに「世界一高い場所にある」と形容詞がつく。
 57台のエレベーターは世界最速。わずか60秒で展望台(高さ504メートル)へ到達する。そこからは、ターコイズブルーの海と、建設中の幾つもの巨大プロジェクト、遠くかすむ砂漠へ続くハイウエーを見ることができる。
 「ちょっと前まで、ラクダとロバがとぼとぼ歩いていただけだったのに。今じゃランボルギーニとフェラーリが爆走しているよ」。インドから来たというタクシーの運転手が愉快そうに言った。

◆  ◆  

展望台には、ゴールドのATMマシンが Photo © Mirei Sato

展望台には、ゴールドのATMマシンが
Photo © Mirei Sato

 ドバイは、「オイルマネー」がつくった都市だ。アブダビ(現UAEの首都)で油田が発見されたのが1958年。それまで争い合っていた7つの首長国を統一し、71年に連邦国家UAEができた。しかし油田はすぐに枯渇する。先を見越したドバイの首長は、オイルマネーを使って次々に投資を行った。インフラ構築、貿易振興、製造業誘致、外国企業の経済特区設立。
 中でも力を入れたのが、観光産業だ。2000年に1232万人だった訪問者は、10年で5098万人に。ホテルの宿泊客も5倍増の年間900万人となった。1958年に1軒しかなかったホテルは、2011年時点で580軒、7万室以上もある。中東のハブとなったドバイ国際空港に加え、もう1カ所の国際空港が間もなくオープンする。
 土と海しかないドバイで、どうやって観光資源を生み出すか。答えは、テーマパークとショッピングモールだった。ドバイには70のショッピングモールがあり、1日中遊んでも飽きないだけの様々なアトラクションが揃っている。水族館、動物園、スケートリンクにスキー場まで…。有名ファッションブランドの数は、イギリスに次いで世界で2番目に多い。今日のドバイのGDPは、35%が観光産業、40%がショッピングで占められ、産油による収入は5%以下だ。
 建設中の「ドバイランド」には、5つのテーマパーク、55のホテル、45の巨大プロジェクトが入る予定。ほかに、「ドバイ・スポーツ・シティ」、恐竜がテーマの「シティ・オブ・アラビア」、ピラミッドやエッフェル塔を再現した「ファルコン・シティ」などの計画が進んでいる。

 


 

1

2 3 4
Universal Mobile

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

関連記事

Universal Mobile
資格の学校TAC
アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. 2023年2月14日

    愛するアメリカ
    サンフランシスコの町並み 一年中温暖なカリフォルニアだが、冬は雨が降る。以前は1年間でたった...
  2. キルトを縫い合わせたような美しい田園風景が広がるグラン・プレ カナダの東部ノヴァスコシア州に...
  3. 本稿は、特に日系企業で1年を通して米国に滞在する駐在員が連邦税務申告書「Form 1040...
  4. 九州より広いウッド・バッファロー国立公園には、森と湿地がどこまでも続いている ©Parc nati...
  5. 2022年12月9日

    住みたい国
    熊本県八代市の「くまモンポート八代」で 8月の終わりから9月中頃にかけて、私とニナは日本に飛...
  6. 2022年12月7日

    日常の些事
    冬の落ち葉 年齢を重ねると、だんだんと感動が薄くなるとはよくいわれる。ほとんどのことは過去に...
  7. 2022年12月6日

    美酒と器
    酒器の種類 酒器にはさまざまな素材、形のものが存在する。適切な器を選ばないとお酒本来...
  8. 契約上のトラブル 広範囲にわたる法律問題を扱う弊社にはさまざまなお問い合わせがありま...
ページ上部へ戻る