第82回 庭犬の悲劇
文&写真/寺口麻穂(Text and photos by Maho Teraguchi)
- 2015年7月5日
限りなく真っ青な空、燦々と照りつける太陽、カラッと爽やかな空気、空高くそびえ立つパームツリー。南カリフォルニアに引っ越してから、愛犬ノアと私は、この土地が惜しみなく提供してくれるこれらを満喫しています。しかし、この土地に住み始めてから、とても嫌な思いもしています。それは散歩中に遭遇する「庭犬」。彼らの凄まじい行動に、何度怖い経験をしたか…。今回は、南カリフォルニアで異常生息している庭犬たちの悲劇についてお話します。
ハラスメントだ!
私が定義する「庭犬」とは、1日中庭に閉じ込められ、その欲求不満から、前を通るものに異常な反応を示す犬のことを言います。「うちは庭が広いんだから犬も十分満足だろう」とか、「散歩は面倒」と言う人間に飼われているのが庭犬です。以前、何の悪気もなく「うちにはものすごく広い裏庭があるので犬も大満足ですよ。獣医のところに行く時以外に外に出したことがない。必要あるの?」という10歳のラブラドルの飼い主に出会いました。そして自分がそこの家庭の犬でなくって本当によかったと思いました。
庭犬は、東海岸にもたくさんいましたが、気候がよく、土地も広い南カリフォルニアでは、丸1日、1年中庭で暮らす犬が本当にいっぱい。ノアと気持ちよく住宅街をお散歩していても、フェンス沿いに激走し、歯を剥き出して向かってきたり、横の木戸に全速力でかけ走り、体を投げつけ吠えたぎったりする犬たちのハラスメントが酷すぎて、楽しいはずの散歩も台無しに。実は、ジュリエットもノアも、また友人の愛犬たちも「庭犬」が飛び出してきて、襲われて大変な経験もしています。しかし、庭から異常反応する犬たちには正当な言い分があるのです。
教えなければ…
好奇心旺盛な犬は、家や敷地の外に出て、外界で起こっていることを知る必要があります。また、外で色々なものに遭遇することで頭を刺激し、社会性を養う大切な機会にしているのです。庭はあくまで自分の敷地で、外であれ「監禁」に変わりはありません。体を動かす散歩は、健康維持のためにも大切な肉体運動です。そして飼い主との絆を深めるのに絶好の場。しかし、犬がぐいぐい引っ張り、ゼイゼイ言って人に見られると恥ずかしい…とか、出くわすものに何でも向かっていくから怖い…とか、引っ張られると腕も疲れるし、ストレスも溜まるし、全然楽しい気分になれない…などと言って散歩をやめてしまうと、犬は欲求不満をどんどん溜め、色々な問題行動を起こします。
教えられないで最初からきちんとしたリーシ歩行ができる犬などいません。犬も教えられて初めてリーシを引っ張らず飼い主の指示に注意を払いながら歩けるようになるのです。犬も自分も正しい歩行の練習をせず、「あんな大変な思いはしたくないから散歩はなし」と言うのはあまりにも無責任過ぎます。そういう努力をする気も時間もないなら、最初から犬を飼うのをやめるべき。そういう人に飼われた犬は哀れです。
犬が好きで、犬を幸せにしたいなら、犬も自分もきちんとトレーニングをし、快適な散歩ができるようにすること。それが愛犬への愛です。
次回は、「嫌われたくない飼い主」と題し、愛犬に嫌われるのでは…との懸念が愛犬との関係をどんどん悪くするお話です。お楽しみに!
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