最終回 闘う

文/寺口麻穂(Text by Maho Teraguchi)


Photo © Maho Teraguchi

 犬と人間の快適な生活のためにと7年5カ月休まず書き続けてきたこの「ドギーパラダイス!」も、今回で終止符を打つことになりました。最終回は、何か記念になることを書いて……と考えていたそんな折に不意の出来事が起こりました。愛犬ノアが、悪性リンパ腫を患っていることが発覚したのです。今回は、そんなノアと私の闘いのお話です。

間一髪

 去年の夏、ノアのあごの下に小さなシコリを見つけました。その時は大事扱いせず、様子を見ることにしました。秋に予防注射で病院に行った際、触診で獣医師がノアの鎖骨辺りの両側にもシコリがあることを発見。位置的にリンパの病気の疑いが強いと。炎症性の可能性もあるので一旦抗生物質で様子を見ましたが、まったく小さくなる兆しがなかったため、細胞診を行いました。結果、悪性リンパ腫の可能性が高いと言われました。ノア自身はいたって普通で、まったく病気らしい素振りを見せていなかったため、予防注射で訪れた専門家の触診で間一髪での大病の発見となりました。発見が少し遅れていたら、あっという間に酷い時点まで進行し、具合が悪くなって急いで病院に駆け込むという形になっていたかもしれません。

素早い行動と対処

 リンパ球は全身を循環するため、短期間で体全体を冒してしまうので素早い行動と対処が必要でした。即、がん専門医に診てもらうことに。やはり、ステージ3の悪性リンパ腫でした。犬のリンパ腫の治療法に手術という道はなく、抗がん剤を使った化学治療のみ。もし、抗がん剤治療をしないなら、ステロイドで炎症を和らげながら、ホスピス・ケアしかありません。その場合はがん細胞が急速に進行して全身の臓器に障害を起こすため、余命は1〜2カ月くらいと言われました。

 まったく自覚症状なくいつも通りに暮らす愛犬を目の前にしての余命1〜2カ月の宣告。頭が真っ白になりました。何も知らず、毎日のほほんと暮らしている愛犬です。心臓が引き裂かれる思いでした。「でも、私たちには化学治療という道がある!」。治療費は、目が飛び出る程の高額ですが、お金はどうにでもなること。すぐに抗がん剤治療を始めることにしました。ここで学んだのは、愛犬の体・体調に「うん?」と思うようなことがあれば、素早く行動を起こすこと。

 犬の一日は人間の数倍に値します。一日延ばしたために手遅れにならないように気をつけなければいけません。また、飼い主も普段から犬の病気についてある程度の知識を身につけていること。何か起こった時、知識があれば賢い判断と対応をしやすいです。そして、意見を聞き、信頼できる支えを周りに持っていることは大変な強味です。

病は気から

 今、ノアと私は毎週近くのCancer Centerに治療に通っています。幸い、リンパ腫は抗がん剤治療が大変良く反応するということ。確かに、一回目の治療の後すぐに腫瘍が小さくなり、担当医も「よし!」と結果に満足していました。また犬の場合は、抗がん剤の強い副作用が出ることは稀らしく、ノアも今のところ副作用で悩まされていません。抗がん剤治療のみならず、いろんな角度から、がんになんか負けないぞ! と親子で一生懸命闘っています。目の前に現れる課題を冷静に一つひとつ対処し、常に前向きな姿勢でこの恐ろしい病気とがっつりぶつかる。そして、毎日を笑い一杯、愛一杯で楽しく過ごすことがノアへの「最強の薬」になると信じています。

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寺口麻穂 (Maho Teraguchi)

寺口麻穂 (Maho Teraguchi)

ライタープロフィール

在米29年。かつては人間の専門家を目指しサンホセ州立大学・大学院で文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人では「Doggie Project」というビジネスを設立。「人間に100%生活を依存している犬を幸せにすることが人間の責任」を全うするため、犬の飼い主教育やトレーニング、問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し活躍中。

プライベート/グループレッスン、講習会のお問い合わせは:www.doggieproject.com
ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

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