第50回 南山国際高・中、閉校へ

文/松本輝彦(Text by Teruhiko Matsumoto)

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 南山国際高校・中学(愛知県豊田市)は、中学の新入生募集を2018年度から停止すると、10月23日に発表しました。その後、新1年生が中学を卒業する19年度末で中学校を廃止する予定です。さらに、21年度には新高校1年生の募集を停止し、22年度末に高校も廃止して、完全に閉校する予定です。
 募集停止の予定に従って入学試験は中止されます。編入学試験も、17年度まではこれまで通り実施されますが、18年度の中学1年から高校閉鎖まで段階的に中止されることになります。

閉校の理由

 1973年、 南山学園が、トヨタ自動車の故豊田英二氏の要請を受けて、南山中学の「帰国子女特別学級」を発足させました。その後、93年に「国際高等・中学校」として独立、開校しました。
  2008年度には中学・高校あわせて726人が在籍していました。しかし、その後は生徒数減少に向かい、14年度は521人にまで減少しています。
 同校は、 帰国生徒教育に特化した学校として役割を果たしてきました。多種多様な背景を持った帰国生徒のためには、一般生徒と比較にならないほど多大な指導が必要です。そのため、一般生徒の受け入れは事実上不可能で、帰国子女と外国人だけを対象にした、全国的にも珍しい学校として存在してきました。
 国際性を重視し帰国子女を受け入れる学校が増えるなど社会情勢の変化が、閉校の理由として挙げられています。 「特別な存在としての帰国生徒教育の使命は、これまでに南山国際高等・中学校が取り組んできた社会貢献で十二分に果たしており、既に役割を終えたものと考えます」と、募集停止・閉校の背景を説明しています。
 また、社会情勢の変化には、「国や県からの帰国生徒補助金が大幅な減額の上、廃止されるなど、行政も帰国生徒教育を特別視することを改める施策へと変化しています」と、帰国子女教育に対する行政の財政援助の変化も指摘されています。

「帰国子女」から「国際化」へ

 1970年代当時の社会的要請に応え、「帰国生徒(帰国子女)」を特別な存在として、「国際高等・中学校」を設置してきた南山国際の閉校は、ひとつの時代の終わりを象徴するものです。
 南山国際高等・中学校が独立した当時、 「帰国子女の受け入れを主たる目的として設置された高等学校」が日本全国に数校つくられました。バブル経済下での海外駐在員の急増に伴う、子弟の帰国受け入れを促進する教育行政の一環でした。その「帰国子女のための教育」には、日本帰国後の学校現場での国語力・教科学習内容の補習などの指導から、日本という異文化への帰国適応のための心理的なサポートまでの、国内の児童生徒の指導にはない幅広い内容が含まれていました。
 それから、30年以上経た現在、日本社会は「国際化」の波に翻弄されています。帰国生向けの特別な「帰国」教育から、日本の子どもすべてを対象にした「国際」教育への広がりです。昨今の教育現場でのキーワード「グローバル」「英語」「IB」が表す教育は、現在・近未来のグローバル社会を生き抜いていく子ども達にとって必要であることに間違いはありません。
 しかし、日本経済のグローバル化に伴って、世界各地へ渡航する子ども達が増加傾向にあります。また、海外に長期で滞在する家族も増えてきています。日本に帰国する児童生徒がいなくなったわけではありません。かつての帰国子女が抱えた問題が、これから帰国する子どもにも存在するのです。帰国子女への教育上の特別な配慮が、以前にも増して必要なのです。

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松本輝彦 (Teruhiko Matsumoto)

松本輝彦 (Teruhiko Matsumoto)

ライタープロフィール

海外・帰国子女教育カウンセラー。北米の日本人の子どもの教育サポートに30年以上携わる。最近は、北米の保護者向けの教育講演会・情報誌・インターネットを通じての教育情報の発信や教育相談を中心に活動。また、北米の子どもたちが現地校で身につけている「宝(アカデミックスキル)」の教育を日本の学校で広げるために、日本の中学・高校・大学の授業や講演会も活発に行っている。

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