第168回 スポンサード・コンテンツの影響力

文/日比野泰(Text by Hiroshi Hibino)

 前々回、現代の情報源となるメディアが発する4種の“情報”:「(本来の)情報」、「プロパガンダ」、「誤報」、「偽情報」について触れました。今年の最後に、我々がメディア(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ放送、ソーシャルメディア)を消費する際の、もう一つの大事な情報形態について、マーケッターの立場からすると複雑ながら、面白い(時には恐ろしい)状況をご紹介したいと思います。

マーケティングとプロパガンダの違い

 ご存知の方も多いと思いますが、実は近いところがあります。以前触れましたが、プロパガンダは大げさに都合の良いことだけを、人々の感情や恐怖に訴えかけ、宗教や政治的概念を売り込むことです。広告・マーケティングは、似たような手法を利用し、(人々の悩みや不安、ミーハー心などを操作し、)消費物を売り込むことです。要するに売り手の思惑で売り込むことが、立派に共通しており、しかも企業のプロパガンダともくると、自社に有利な情報を流しつつ、場合により直接の利害関係を明らかにはしません。

 以下の例は、厳密にはプロパガンダというより、偽情報に区分されると思いますが、最近とんでもない事実が公になりました:この50年間、砂糖などの甘いお菓子が持つ健康リスクは、もっぱら脂肪の持つ危険性であると誤認されてきましたが、実は製糖業界が研究者をお金で買収し、調査結果をねじ曲げて、科学論文を発表していたらしいのです。そしてこの誤解により、流行した「低脂肪で糖分の多い食事」は、現在の肥満社会を形成したと言われています。

 こういうことが現実に起きているからこそ、メディア・リテラシーはとても重要なわけですが、近年はネイティブ広告を含む、スポンサード・コンテンツの登場で、人が情報源を安全に消化する上でのハードルも、実は更に上がっているのです。

収入減だったメディアの救世主

 近年、伝統的広告の収入低下を「スポンサード・コンテンツ」により、補っていくことを図り、かなり成功しているメディアが多いのですが、これは簡単に言えば、情報記事、ビデオ、写真集、ポッドキャストなど、自然なコンテンツを装った有料広告です。

 以前なら、新聞や雑誌などに広告を載せようと思ったら、モデルさんと写真家とコピーライターを雇い、広告を作り、媒体の専用広告欄に載せていたと思います。しかし現代の広告ブロックソフトや、人々の広告を無視できる感覚の発達もあり、伝統広告は、そのリーチと影響力が激減し、しかも成果測定も困難であり、広告主にとっての価値が年々下がってきました。しばらく広告スペースを売る側(媒体)と買う側(広告主)も苦しんだあげく、媒体の中に自然に挿入されたコンテンツは、消費者をより説得しやすく、面白い情報として紹介することができる事に気付いたのです。

 事実、アメリカにおいては、New York Timesを始め、ほとんどの大手新聞や雑誌は、「スポンサード・コンテンツ」を収益の大事な一部と認定しています。

コンテンツ・マーケティングとネイティブ広告

 コンテンツ・マーケティングは、消費する側にとって、情報性、教育性など、面白みの高いコンテンツを作り出し、それを活用するマーケティングの手法です。従来のCMや有名人を使った押し売りのキャンペーンではなく、受け手側が何かを得たと感じさせる、有益なコンテンツ、例えばありふれた、非常においしい新しい調理法の特集から、ワンポイントメイクを極める秘訣の画期的なビデオまで、お役立ち情報の中に、企業の商品が密かに取り上げられたり、企業対消費者ではなく、エンドユーザーからの推薦として紹介するといった具合です。「Infotainment」とか「Edutainment」といった、楽しい造語は、現代企業の商品やサービス紹介戦略にますます入ってきています。
 
 コンテンツ・マーケティングは、ブランドの認知度を高めながら、ユーザーとの信頼関係や忠誠心を作り上げるには、有効かつ必要なものになってきており、潜在顧客層にとって有益なコンテンツを作ったら、今度は人目に触れさせる必要があります。

 ここでネイティブ広告の出番なのですが、ネイティブ広告とは、その有益なコンテンツを各媒体の体裁に合った形で、違和感なく挿入し、消費者に抵抗感なしで有益情報として消化させる広告の事です。例えば検索エンジンでのキーワード連動広告、Facebookのスポンサード・ポスト、ポータルサイトのレコメンド記事なども全てこれに該当します。

 そしてFacebookやBuzz feedはもちろん、New York Timesですら、社説より、この「スポンサード・コンテンツ」として載せた方が、遥かに影響力を持つとまで言っています。

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

日比野泰 (Hiroshi Hibino)

日比野泰 (Hiroshi Hibino)

ライタープロフィール

Artisan Crew代表。静岡大学工学部卒。2001年に渡米し、ロサンゼルス・エリアにてArtisan Crewを設立。チーフエンジニアとして日米の企業向けに基幹システムを多数開発。次第にニーズと共に、Webマーケティングを中心とした、ブランディングやアメリカ進出サポート、バイラルマーケティングなど、広告代理店としてのサービス提供へと展開するにつれて、Webプロデューサーやクリエイティブディレクターとして、分析・戦略の立案からチームのマネージメントなどの役割を担当。年商2億円増のSEO、月商10万ドル超のECサイト、シェア1位を獲得するブランディング、ファン数10万人超えのSMM、売価の1%以下のCPAを実現するPPC広告など、米系企業とも対等以上に戦える希少な日系企業として、成果の伴うサービスをモットーに企業マーケティングにも貢献。

Facebook:
/Artisan.Socks.Shop
/ArtisanCrew

この著者の最新の記事

関連記事

アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. 今年、UCを卒業するニナは大学で上級の日本語クラスを取っていた。どんな授業内容か、課題には...
  2. ニューヨーク風景 アメリカにある程度、あるいは長年住んでいる人なら分かると思うが、外国である...
  3. 広大な「バッファロー狩りの断崖」。かつて壮絶な狩猟が行われていたことが想像できないほど、 現在は穏...
  4. ©Kevin Baird/Flickr LOHASの聖地 Boulder, Colorad...
  5. アメリカ在住者で子どもがいる方なら「イマージョンプログラム」という言葉を聞いたことがあるか...
  6. 2024年2月9日

    劣化する命、育つ命
    フローレンス 誰もが年を取る。アンチエイジングに積極的に取り組まれている方はそれなりの成果が...
  7. 長さ8キロ、幅1キロの面積を持つミグアシャ国立公園は、脊椎動物の化石が埋まった岩層を保護するために...
  8. 本稿は、特に日系企業で1年を通して米国に滞在する駐在員が連邦税務申告書「Form 1040...
ページ上部へ戻る