物議を醸している犯罪対応アプリケーション「シティズン(Citizen)」は8月3日、10万人以上による数ヵ月間の試験利用を経て、有料版「プロテクト(Protect)」の一般向け提供を開始した。サブスクリプション・サービスとして提供されるプロテクト・アプリケーションの利用料金は月額20ドルだ。テッククランチ誌によると、同社は、警察や救急部隊のような役割りを民間会社が担えるのかどうかを再考させるきっかけとなっており、関心を集めている。
▽2大機能
プロテクトが提供する複数の機能のうち目玉は、「ゲット・エイジェント(GetAgent)」というボタンだ。同機能は、さまざまの筋書きを想定したシティズン利用者対応担当者に利用者(助けを求める通報者)がアクセスできるようにする。
たとえば、何らかの事件に巻き込まれ、「911(日本の110番に相当)に電話していることを知られたくない場合」に、ゲット・エイジェントを通して警察に通報できるようにする。いかなる場合でも、利用者の安全を考え、緊急即応部隊(警察や消防署、救急車)に効果的につなぐ橋渡しとして機能する、と同社は説明している。
そのほかの主要機能には、利用者のスマートフォンを使った生音声情報を人工知能で分析し、現場の状況を判断しながら対応担当者が指示を出し、安全を確保できるよう誘導するプロテクト・モードがある。
▽ロサンゼルスの山火事で起こした不祥事
シティズンは、「ヴィジランティ(Vigilante)」(自警行為)というアプリケーションを2021年初めに市場投入したことで議論の的になったことがある。ヴィジランティは、「個人的迅速対応サービス(personal rapid response service)」を提供する複数の車を現場に派遣していた。
ロサンゼルスの山火事の際には、その原因をつくった人物の特定に関して3万ドルの賞金を提示して話題となった。人物は特定されたが、それはのちに誤認告発だったことが判明した。同社はその時点でその人物の写真をオンライン公開しており、80万回以上も閲覧されたあとだった。
同CEOはその人物に謝罪するとともに、同じ過ちを犯さないよう業務手法を検証して改善することを公約した。
▽「民間による第二の緊急即応網」
シティズンのCEOは「個人的迅速対応サービス」について、「われわれの保護官(利用者の安全確保のために同社に勤務する利用者対応担当)たちは、非常に訓練された安全専門家たちでさまざまの緊急事態や不確実な非常事態において人々を救助できる能力を備えた人たちだ」と同社は説明していた。
「われわれは、個々の要救助者の状況に応じた個人化救助サービスによって、要救助者の正確な場所に最初に向かう即応部隊であると同時に、要救助者の緊急連絡先(たとえば家族や親友)に通知し、要救助者が安全になるまで支援する」と同社は強調していた。
ヴィジランティ・アプリケーションの目的は、犯罪目撃者たちによるクラウドソーシング(crowdsourcing)のプラットフォームと、ロサンゼルスを巡回する即応車両群によって犯罪や被害者を減らすことだった。同CEOはそれを「民間による第二の緊急即応網」と説明した。
▽警察や消防署の代わりが務まるかどうか
ムーンライト(Noonlight)のようなパニック・ボタン機能を提供するアプリケーションはすでにいくつかある。身の危険を感じた利用者がボタンを押すだけで助けを求められる機能だ。シティズンは、それ以上のサービスを提供することで警察や消防の任務の一部を民間で代替しようとねらうものだ。
シティズンが直面する問題は、各自治体の警察や消防署が提供する水準の救急サービスを提供するのにシティズンのような民間業者がふさわしいかどうかということだ。
2016年に立ち上げられた同社は当初、アップ・ストアーでの流通を拒否された。当初の社名はヴィジランティで、警察や消防のサービスでは不十分という考えから民間が自警するという概念にもとづくアプリケーションだった。同社はその後、ニューヨークからほかの都市に事業を拡張するとともに、社名をシティズンに変えて、次第に全米に広がった。
シティズンは現在、米国内20都市で利用可能だ。プロテクト・モード機能は8月3日に提供開始された。シティズンは現在、iOS版だけが提供されている。アンドロイド版は数週間後に市場投入される見通しだ。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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