カリフォルニア州拠点の新興企業エンディアテックス(Endiatx)は、人間の体内に入って診断や手術を可能にするロボティック技術を開発し関心を集めつつある。人工知能技術を開発するユナーニマスAI(Unanimous AI)のルイス・ローゼンバーグCEOは最近、エンディアテックスの技術を取材し、その報告をベンチャービート誌に寄稿した。それによると、エンディアテックスの超小型ロボットは、人間の被験者の消化器系の内部に入って動き回るのに成功した。
▽次世代の没入型メディアの一つ
その種の技術は、テレプレゼンスまたはテレロボティクスと呼ばれる分野に属する。平面的なデジタル・メディアからメタヴァースへの移行が話題になるにつれ、仮想現実(VR)と拡張現実(AR)の分野に新たな可能性が開かれるようになった。テレプレゼンスやテレロボティクスも、同様のイマーシヴ・メディア(没入型メディア)の一つと言える。
ローゼンバーグ氏がテレロボティクスのシステムを初めて体験したのは1991年だった。米航空宇宙局(NASA)で働いていた時代に、ごく初期の可動式テレロボティック・システムの試作品を使ったという。可動式ロボットに搭載されたカメラから送られてくる映像を見ながら、ハンドルを動かしてロボット周辺の様子を見ることができた。
同システムは可動式とは言っても、実際に移動するにはヴァンか小型トラックが必要になる大きさだった。
想定されたおもな用途は、原子炉や海底、衛星をはじめ人が実際に行くには危険な場所での修理だった。当時のローゼンバーグ氏の研究の焦点は、その種のシステムに触感のフィードバックを追加してオペレーターの操作性を高めることにあった。
その種のシステムを超小型化して人間の体内に入れるようにすれば、どれだけの用途が開かれるかについては、同氏はその当時、考えもしなかったという。
▽リアルタイムの体内映像を無線転送
2019年に設立されたエンディアテックスは、人間が飲み込める超小型ドローン「ピルボット(PillBot)」をすでに開発している。ピルボットは、その名の通りビタミン錠ほどの大きさで、遠隔操作でき、リアルタイムの映像をコンピューターやスマートフォンに送信する。
エンディアテックスのトーリー・スミスCEOは、子どものころに見たSF映画「インナースペイス(Innerspace)」(1987年)に影響され、体内に入るという概念を構想し続け、エンディアテックスを設立後、その概念を着々と現実にしつつある。
そして、スミス氏自身が、ドローン(のちのピルボット)の試作品第1号を初めて飲み込んだ被験者にもなった。当初の試験以来、何人かの従業員も何度となく試作品を飲み込んできた。
スミス氏によると、胃潰瘍や胃炎、がん、そのほかの疾病の診断目的で使えるようにすることが目下の目標だ。同氏は現在、メイヨー・クリニック(Mayo Clinic)の医師らと協力して遺体を使って試験を進めており、米食品&医薬品局(FDA)の認可に向けた試験を計画中だ。すべてがうまく行けば、2024年までに患者を診断できるようになる見込みだ。
▽高額で鎮痛剤を使う内視鏡検査に取って代わる可能性
胃痛で診療に訪れた患者を診断する際、現在、標準的に使われているのは内視鏡検査だ。それには鎮静剤を使う必要があり、診断内容が明確にわかるまで何回かの来院が必要になる。しかし、飲み込める内視ロボットがあれば、時間と手間を省き、費用の節約にもなる。
体内ロボットは、現行の内視鏡カメラと異なり配線に縛られないため、柔軟性がある。したがって、これまでのカメラでは見ることのできなかった場所にも到達できる可能性がある。
ピルボットは、超小型潜水艦のような外観の装置で、モーターやプロペラ、カメラを搭載し、無線接続によって映像をリアルタイムに送り返す。
エンディアテックスは現在、標準的なエックスボックス用ゲーム・コントローラーをピルボットの遠隔操作に使っているが、最終的にはスマートフォンの指触操作画面で操縦できるようにする計画だ。
▽製造コストは1個あたり25ドル
エンディアテックスでは、自宅にいる患者が自分でドローン(ピルボット)を飲み込み、医師がコンピューターやモバイル機器を使って、ピルボット内蔵カメラからの映像をリアルタイムで見られるようにする遠隔医療を構想している。
ピルボットは1個あたり25ドルで製造でき、販売価格として数百ドルに設定できる、と同社は考えている。鎮静剤を使う内視鏡検査で数千ドルの費用がかかることを考えれば、はるかに安価なうえ、すばやく検査できるため多くの命を救える可能性がある。
2022年内には最初の臨床試験を開始し、その後、病院で試験運用するための機種を発売し、最終的に自宅で使えるようにするための機種を発売する計画だ。
スミス氏によると、当面は体内観察に機能が限定される見通しだが、ゆくゆくは体内の検体組織を採取したり、ほかの施術を実行したりすることもできるようにする計画だ。長期的にはドローンを米粒ほどの大きさに縮小して、消化器系だけでなくほかの部位での使用の可能性も開きたい、と同氏は考えている。
(Gaean International Strategies, llc社提供)
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