第48回 日本の大学の文系学部は廃止?!

文/松本輝彦(Text by Teruhiko Matsumoto)

人文系学部廃止?

 文部科学省は6月に、国立86大学に「文学部や社会学部などの人文社会系の学部と大学院について、社会に必要とされる人材を育てられていなければ、廃止や分野の転換の検討」を求めるよう通知しました。「人文社会系の卒業生の多くがサラリーマンになるという実績を踏まえ、大学は地元で必要とされている職種を把握。需要にあった人材を育てる学部に転換する」などの、国立大学側の対応を想定しています。
 その背景には、「自然科学系の研究は国益に直接つながる技術革新や産業振興に寄与しているが、人文社会系は成果が見えにくい」「国立大への国の補助金は計1・1兆円以上。子どもが減り、財政事情が悪化する中、大学には、『見返り』の大きい分野に力を入れさせる」として、「国立大に投入される税金を、ニーズがある分野に集中させる」という文科省のねらいがあります。
 この通知に先立って、昨年、文科省が「人文・社会科学系の学部などの廃止や転換を促す」考えを示して以来、「実践力:実社会に通じる教育」対「考える力:危機を乗り越える教養教育」と、大学に求められる役割の議論が盛り上がってきました。
 実践力派は、「大学進学率が5割を超えて大学が大衆化した現在、卒業生の大半が進むのはサービス産業で、急速な人口減で労働力も人材も不足している。だから学生には、職業人として必要なスキルや実践力を大学で身につけてほしい」と、職業訓練の必要性を主張しています。
 一方、教養派は、「20年後、この社会がどうなっているか、誰にもわかりません。どんな未来にも対応できるよう、次の世代には十分な力をつけてあげたい。自分の頭で考える力が求められています。大学の文系学部で鍛えるのが、この力です。身につけた教養は、どんな分野に進んでも役に立つ力になるはずです」と、教養教育の利点を主張しています。

経団連が反対!

 文科省の6月の通知が「文系つぶし」と受け取られ、それが「即戦力を求める産業界(経団連)の意向」との見方が広がって、批判や報道が見られるようになりました。それを懸念して「産業化の求める人材像はその対極にある」と、文系の必要性を訴える声明を、経団連が9月に発表しました。
 その声明のなかで「大学・大学院では、留学など様々な体験活動を通じ、文化や社会の多様性を理解することが重要」とし、文系・理系にまたがる「分野横断型の発想」で、様々な課題を解決できる人材が求められていると主張しました。文科省の考えと距離を置いて、「文系つぶし」の批判を否定したことになります。

米大学の伝統

 米国では、伝統的に教養教育(リベラルアーツ)が学問の基本として重要視されてきました。実学ではなく、社会科学・文学・哲学に加えて美術や音楽までの幅広い分野を学ばせているリベラルアーツの大学が全米に数多く見られます。また、州立の総合大学などでは、工学部以外のすべての分野が一つ学部のもとに組織されて、文系・理系を問わず、幅広い教養が学べるようになっています。
 米国の大学教育の基本は、学部の4年間で教養教育を受けて、社会で専門家として通用する勉強は学部卒業後の大学院、ロー・スクール、メディカル・スクールなどで学ぶことが前提になっています。学部の4年間で教養と専門の両方の勉学をさせる日本の大学教育との大きな違いです。
 しかし、米国の連邦や州の政府・大学は、近年、科学・工学分野の教育に力を入れています。それは、グローバル化社会で技術革新や産業を振興させる、国としての生き残り作戦なのです。

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松本輝彦 (Teruhiko Matsumoto)

松本輝彦 (Teruhiko Matsumoto)

ライタープロフィール

海外・帰国子女教育カウンセラー。北米の日本人の子どもの教育サポートに30年以上携わる。最近は、北米の保護者向けの教育講演会・情報誌・インターネットを通じての教育情報の発信や教育相談を中心に活動。また、北米の子どもたちが現地校で身につけている「宝(アカデミックスキル)」の教育を日本の学校で広げるために、日本の中学・高校・大学の授業や講演会も活発に行っている。

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