国防総省は、技術業界と小売業界の米大企業らと協力して、飲料水や医薬品、食料品の不足を予想して迅速に供給するための新しいデータ・プラットフォームを開発する。ロール・コール誌が報じた。
▽必需品がいつどこで不足するかを予想し迅速に手配可能に
同事業を統括する国防総省の統合人工知能センターは、米軍の人工知能関連の取り組みを一手にまとめる組織として2019年に設立された。今回の開発事業は、健康と安全を司るローマ神話の女神にちなんで「プロジェクト・サルース」と呼ばれている。
同予想モデルの開発に際しては、国勢調査や高齢者医療保険制度、病院、そのほかの情報源から入手できるデータに加え、新型コロナウイルス・パンデミックの拡大予想や小売店の在庫データを組み合わせる。それらのデータを人工知能で分析することで、必需品の不足がどこでいつ発生するかを予想することを目指す。
「共通の情報と予想機能を持つことで、次の問題がどこで起きるかを真に理解して、物流を最適化できるようにする」と、統合人工知能センターの最高技術責任者ナンド・ムルチャンダニ氏は説明した。
国防総省は、同事業に協力している会社名を明らかにしていないが、それらの業界の最大手らが参加し、試作プラットフォームが3日に完成したとみられる。
▽試験運用後には国防総省から別の機関に移管
パンデミックを受けて、マスクや手袋をはじめ医療関係者が必要とする防護具の不足が深刻化している。また、オンライン小売店は、食料品やほかの商品の需要増に応えるのに苦心している。
国防総省の同事業でそれらの需要や不足が正確に予想できるようになれば、その情報を米軍と州軍、連邦緊急事態管理庁(Federal Emergency Management Agency=FEMA)が活用して必需品を動かせるようになる。また、小売店も在庫調整に使うことができる。
小売店から集められる情報には個人を特定できる情報は含まれておらず、法律家らによる確認も受けている。
同事業は、フィーマ(FEMA)からの任務割り当てという形式で進められており、それによって、通常であれば国内事業を禁じられている米軍が携われるようになっている。
国防総省では、試作プラットフォームの試験運用が終了したのち、同データ・プラットフォームを、米国本土の防衛を担う米国北方軍や州軍、またはフィーマのいずれかに移管する計画だ。
▽イスラム国との戦争での動画解析部隊から派生
国防総省の統合人工知能センターは、イスラム国に対する戦争でドローンが撮影した動画に映った物体を分析および特定する目的で2017年に発足した「プロジェクト・メイヴン(Project Maven)」から派生した。それらの技術は、カリフォルニア州の山火事や他州のハリケーン被害に対応する州軍を助ける目的でも使われてきた。
国防総省は、山火事の発生地帯の上空にドローンを送って火災の現在地を把握し、地上の消防隊員を支援してきた。山火事関連のその取り組みは、最終的には州軍に移管される予定だ。
山火事で培ってきた経験は、刻々と変動する状況から大量の生データを取得して複数の関係者との連携を調整し、すばやく結果を出すための学習につながった。
同センターが掲げる目標の一つは、機器や武器を重視する産業化時代の取り組み手法から、データを重視するデジタル時代の取り組み手法へと米軍の文化を移行させることだ。
▽中立的第三者として小売大手らの販売データ共有プラットフォームを実現へ
ウォルマートやターゲット、セイフウェイ、アマゾンといった大手小売会社らは、膨大な量かつ高度の販売データを持っているものの、蓄積した統計としてすらそれらのデータを外部と共有することはほとんどない。
「政府はそこで役割りを果たせる。中立の第三者として市場をつくることができる」 と、ムルチャンダニ氏は話す。同氏は、シリコン・バレー起業家の経歴を持ち、設立した会社をシスコ・システムズに売却したことがある。
ハリケーンや竜巻といった自然災害の救援活動に当たる州軍やフィーマは通常、「小売店についての情報をまったく持っていない」と、ムルチャンダニ氏は指摘する。同氏によると、州兵がみずから小売店に行って、棚にある飲料水を数えなければならないといった事態もあった。
「兵士が店でボトル水を数えることは時間のむだであるうえ、店を出たらすぐに不正確になる情報だ」。今回の開発事業を通じて、不足が発生している地域を俯瞰できる視野を持てるようになることが目標だ、と同氏は述べた。
【rollcall.com/2020/04/02/tech-retailers-join-pentagons-ai-unit-to-help-with-covid-19-logistics/】 (U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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