スマート包帯の研究&開発が前進 〜 傷口の状態を遠隔追跡、包帯から投薬や電気刺激を可能に

次世代のスマート包帯が開発されつつある。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、スマート包帯には、医師らが傷口の様子を遠隔から追跡し、光や電流を使って治癒を迅速化する機能がある。本稿では、スマート包帯の開発に関する最新動向を前編と後編に分けて解説する。

▽「中世の医療」から「真の未来」へ

「こと傷口のケアにかけては、私たちは中世の医療をいまでも実践している」と、アリゾナ大学医学部の外科部門長でスマート包帯の研究&開発に参加しているジェフリー・ガートナー博士は指摘する。

スマート包帯は、柔軟性の高い電子機器や微細なシステムを応用した医療技術であり、身体装着型医療技術の一つと位置づけられる。国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)が2019年に発表した5500万ドルの助成金が、同分野の発展を支援している。

スマート包帯は、超小型の電子機器を多数搭載し、傷口がどのように治癒しているかを検出し、その情報を無線通信で送信する。単純な切り傷や擦り傷にこれほど高度の技術を使う必要はないが、病院で手当てされる深刻な傷や家庭で管理する慢性的な傷にとっては、現状を大きく改善させる可能性がある。

「医療センターでそれらの機器(スマート包帯)を監視して、問題が起きそうなときには患者に連絡し、次の処置を助言できる。それが真の未来だ」と、米国専門外傷措置協会(American Professional Wound Care Association)の会長であるウィリアム・テテルバッハ博士は話している。

▽実用化にはまだ時間がかかる

ただ、開発中の技術の多くは、いずれも初期段階にある。動物や人を対象とした試験に進んでいるものもあれば、まだ実験室の試験段階にあるものもあり、いずれも近い将来に実用化される段階にはない。

「この分野の研究を5年前に始めた」「スマート・システムやスマート包帯を研究している研究者たちや研究室は当時ほとんど存在しなかった」とノースウェスタン大学のジュレルモ・アミアー教授は話している。

「いまでは米国だけでなく中国や欧州でも、多数の研究者らがそれを追求している」。

スマート包帯は、ゆくゆくは現行のガーゼやレイテックス製の包帯に取って代わる可能性がある。

▽電流療法で治癒を加速

この種の包帯の多くにはポケットが設けられており、そこに電子機器を入れるというのが典型的な設計だ。包帯を交換する際には電子機器を取り出して、新しい包帯のポケットに移す必要がある。

ペンシルベニア大学とラトガース大学の研究者らは、あるスマート包帯をネズミで試験した結果、感染を検出でき、検出した場合には電気療法を行って治癒を早めることができる、と報告した。

電気刺激を送ることで、傷口に免疫細胞が集結して滅菌するとともに、死亡した細胞を取り除くことができることを示す研究結果が複数存在する。臨床試験でも、電気刺激によって傷口の治癒が早まることが示唆されてきた。

ペンシルベニア大学のヤンウェン・ジャン助教授とラトガース大学のシミャオ・ニウ助教授がその研究を進めている。いずれはスマートフォン・アプリケーションに包帯からの報告内容を送信できる機能を両氏は想定している。

「包帯からリアルタイムで医師に傷口の状況を知らせることができる」とジャン氏は話している。

▽抗生物質を遠隔操作で投与する機能も

スマート包帯には、抗生物質を投与する機能もある。抗生物質を小さなカプセルやジェル状にして保存して包帯に付属させ、患部で感染が生じた場合に医師が遠隔操作でバルブを開けて塗布薬を傷口に送るしくみだ。

理論的には、抗生物質を早めに投与すれば傷口の治りが良くなり、コラーゲンの過剰生成を回避できるため、傷跡も残りにくくなる。ジャン氏とニウ氏は、その包帯の臨床試験を2025年には人での実施に進めたい意向だ。

▽ノースウェスタン大学とサウスハンプトン大学の研究

ノースウェスタン大学では、2種類のスマート包帯を開発中だ。どちらもネズミでの試験を終え、現在はブタでの試験に進んでいる。一つは投薬機能があるもので、もう一つは、電極から電流を送って傷口の乾き具合を見ることができるものだ。その電極を電気療法に使い、皮膚細胞や血管の成長を促進することもできる。

そのほか、英国のサウスハンプトン大学では、LED照明で紫外線C波を照射して傷口を消毒する包帯の研究も進められている。その研究はまだ動物試験に進んでいない。

スマート包帯は傷口の管理以外の用途も見出す可能性があり、サウスハンプトン大学の研究では、アトピー性皮膚炎を追跡する包帯の開発も進めている。

▽糖尿病患者の切断を回避できる可能性

スマート包帯の経済性を見きわめるにはまだ時期尚早だが、傷口の感染を早期発見することで、究極的には人命を救うことができ、医療費の削減にもつながる、と研究者らは考えている。

たとえば、糖尿病患者は傷口の合併症が問題になりやすい。米国の疾病管理&予防センター(Centers for Disease Control and Prevention=CDC)によると、2020年に成人の糖尿病患者16万人が切断手術を受けたと見積もられる。糖尿病患者のけがと合併症に起因する感染症をスマート包帯によって早期発見かつ早期治療できれば、切断を回避できる患者が大幅に増えると期待される。

▽慢性的傷の急変に対応することで深刻化や医療費増加を回避

また、ジャーナル・オブ・メディカル・エコノミクス誌によると、慢性的な傷の手当てを対象としたメディケア(高齢者医療保険)の支出額は2019年に225億ドルに達したと推定される。

「10年や20年と長年にわたって傷を患っている患者らは、数百万ドルという医療費を発生させている」と、アリゾナ大学のガートナー博士は指摘する。「ある火曜日に診察して、すべてが良好に見えた患者を、翌週の火曜日に診察したところ、深刻な蜂巣炎を起こし、緊急手術で切断にいたったことがある。その2回の診察のあいだに何かが急変した」。

同博士の研究班は、スタンフォード大学の研究者らとも協力して、電気刺激とバイオセンサーを用いる包帯を開発中だ。3月に人での試験を開始し、その試験を18ヵ月継続する計画だ。その後、米食品&医薬品局(Food and Drug Administration=FDA)の認可を申請する考えだ。同研究には、国防総省から180万ドルの助成金が拠出されている。

(Gaean International Strategies, llc社提供)

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