デジタル・ソリューションが出張の必要性を再考させる~ パンデミック収束後でも一部の出張は動画会議のまま

新型コロナウイルス・パンデミックによって遠隔業務が定着した結果、パンデミック収束後でも出張せずに対応する働き方が継続する可能性が高い。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、そういった動きはすでに表面化しており、出張に大きな時間を割く必要性が本当にあるのかどうか吟味されるようになると予想される。

▽出張による生産性低下を回避

オレゴン州ユージーンにある電動式三輪車製造会社アルシモト(Arcimoto)のマーク・フロンメイヤーCEOは、ここしばらくのあいだ、投資家や顧客を対象とした工場視察を動画通話といったデジタル技術によって実行してきた結果、それを恒常的に続けたいと感じるようになった、と話す。

ウォール・ストリート・ジャーナルの記者が同氏を最近取材した際も、アイフォーン(iPhone)の動画通話機能「フェイスタイム(Facetime)」を使って工場内の設備機器や完成品を示しながら記者の質問に答えた。

それで十分にこと足りるうえ、出張による生産性低下を回避できる点が気に入っている、と同氏は話した。

▽自宅の裏庭に動画会議室

フロンメイヤー氏は、動画会議を快適に開けるようにするために、遮音材を施した小屋を自宅の裏庭に建てた。電気を自宅から引き、広帯域接続にはターリンク(Starlink)の衛星インターネット接続サービスを使っている。

同氏にとってもっとも大きな利点は、犬の鳴き声が電話に入ることがない点だ。同氏はこれまで、裏庭のオフィスで多数の重要な会議をこなしてきた。

「以前であれば、30分の昼食のためだけに東海岸へ飛んで、取り引きを成立させる必要があった。いまでは(動画通話で)でも個人的な話しができることを金融業界の人たちもわかっている」と同氏は話す。

デルタ航空のCEOは最近、2023年までに出張利用がパンデミック前の70%にまで回復するという見通しを示した。残りの30%が戻るかどうか、いつ戻るのかは明らかではない。

▽日本の顧客が遠隔会議に移行

製造や物流の現場で使われる可動式ロボットを製造するカナダのオンタリオ州キチェナー拠点のクリアパス・ロボティクス(Clearpath Robotics)のマット・ランドール CEOは、パンデミック前に資金調達で多忙を極めていた。

「機内が生活の場だった。都市から都市へ、投資家から投資家へと飛び回っていた。しかし、過去14ヵ月には一度も飛行機に乗っていない。飛行機に乗る基準が変わった」と話す。

クリアパスは、日本に多数の顧客を持つ。特に日本企業との取り引きでは直接会うことが重要だったが、日本のそういった業務文化も劇的に変わった。ランドール氏にしてみれば、地球の裏側へ飛ぶ2週間の出張がなくなったことで、事業戦略について考える時間が増えた。パンデミックが終わったあとも、その時間を失いたくないという。

▽製造業では遠隔会議に限界も

アルシモトもクリアパスも製造会社であり、実際にモノをつくる部分をはじめ、遠隔業務でどこまで対応できるかには限界がある。

アルシモトの最高執行責任者で供給網と製造、工学、研究&開発を統括するテリー・ベッカー氏は、パンデミック前には中国の供給会社らを足しげく訪れていた。部品供給業者たちの現場を訪れることが、ユージーン工場の品質を維持するうえで欠かせなかった。それらの出張がなくなったことで、仕様を満たさない部品が納品されるといった問題がパンデミック中に常態化した。出張をしなくなった弊害の一つだ。

とはいえ、同氏はパンデミック後も多くの社内外会議を遠隔で続ける計画だ。「将来的にも電話会議や電子メールよりズーム会議が好まれていくだろう。電話や電子メールではできない写真や図表の共有をはじめ、動画対話ははるかにすぐれている」。

▽出張は特別の機会に限定されていく

クリアパスでは、パンデミック前には工学者らが大型倉庫に集まって、重さ3000ポンドのロボットで試験を実施することがあった。いまでは、内蔵検知器やアクチュエーター、コンピュータだけを搭載した簡易ロボットでソフトウェア更新を試験している。簡易ロボットなら社員の自宅の車庫にも収まる。

簡易ロボットの活用はもともと、パンデミック期間中の緊急対応策としての予定だったが、恒常的に使っていく可能性が高まった、とランドール氏は説明している。

「過去12ヵ月にわたって、新しい投資家や顧客との関係構築を遠隔でできることが証明されてきた。出張に時間を費やすという行動はいずれ、最重要の関係に限定されるだろう」とランドール氏は述べた。

(U.S. Frontline News, Inc.社提供)

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