ワクチン接種済み証明アプリケーション、必要以上に登場の見通し~相互運用性とプライバシーが課題に

全米で新型コロナウイルスのワクチン接種が進むなか、接種済み証明を提示するためのアプリケーションがこれから増える見通しだ。サンノゼのマーキュリー・ニュース紙によると、多くのアプリケーションが出てくれば相互運用性の有無やセキュリティーの脆弱性という問題浮上が確実視されることから、専門家らは互換可用性の重要性を指摘するが、現時点ではまだ不透明だ。

▽ニューヨーク州、エクセルシオールをすでに導入

技術業界や小売業界、医療業界では、いわゆるデジタル・パスポート(ワクチン接種完了証明アプリケーション)の開発にすでに取り組んでいる。航空業界では2021年初めから試験運用されている。

また、ニューヨーク州では、IBMが開発したエクセルシオール(Excelsior)というモバイル・アプリケーションをすでに提供しており、催事会場といった公的大型施設での来場者確認のために使われている。

たとえば、マディソン・スクエア・ガーデンでプロ・バスケットボールの試合が行われる際、来場者たちは陰性の検査結果またはワクチン接種完了の証明をエクセルシオールで示すことで、会場内にすぐに入れる。

▽連邦政府、一元的システムを構築しない方針

ワクチン接種証明アプリケーションは、さまざまの事業や商業を再開するうえで重要な役割りを果たす可能性があるが、プライバシーとセキュリティーの懸念も各方面から指摘されている。また、技術標準(規格)と相互運用性の問題も考えなければならない。

しかし、連邦政府は、その種のアプリケーションを提供しない方針をすでに明示している。ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は同件について、「中央化された一元的な連邦政府のワクチン・データベースをつくらない」「一元的な確認証明の取得を連邦政府が義務づけることもない」と最近発表した。

「オープンな市場を奨励して、さまざまの民間企業と非営利団体がソリューションを開発するのが望ましい」(サキ報道官)。

中央管理の一元的なシステムがないとすると、地方行政や民間のさまざまの組織がそれぞれ独自のアプリケーションを導入することになり、問題が複雑化する可能性もある。

▽「数が少ないほど良い」と専門家は指摘

それに対し、エレクトロニック・プライバシー・インフォメーション・センター(Electronic Privacy Information Center)のアラン・バトラー代表は、「(デジタル・パス・アプリケーションの)数が少ないほど良い」と指摘する。

「公衆衛生関連のシステムは、公衆衛生当局が管理すべきであり、その使い方も制限されるべきだ」「幅広いデータ収集のシステムが公衆衛生の危機を超えるあらゆる目的で使われるようになるのは良くない」と同氏は懸念を明示した。

また、ワクチン接種デジタル・パスポートの構築や運用を民間企業や地方行政に委ねることで、予想外の結果を招く可能性もある。フロリダ州のロン・デサンティス知事は、ワクチン接種完了証明の提示義務づけを禁止した。州政府がその種のアプリケーション導入を禁じることは予想されなかった。

フロリダ州では大きな業界である客船クルーズ業界は、知事の同決定に反発している。

▽国際標準の策定に動き出したリナックス財団

その一方で、リナックス財団(Linux Foundation)の公衆衛生プログラム責任者ジェニー・ワンガー氏によると、リナックス財団は、ワクチン接種証明ソリューションの開発を目指す国際的連携「コーヴィッド19クレデンシャルズ・イニシアティブ(Covid-19 Credentials Initiative)」を支援している。450人以上の技術開発者や学術研究者、医療関係者らが同事業に参加している。

リナックス財団のねらいは、相互運用性のあるオープン・ソースのアプリケーションのための指針を設定することだ。「IBMから新興企業まで、どんな会社でも開発できるようにしたい」とワンガー氏は話している。

同氏によると、理論的には、どのアプリケーションを使うかは個々の利用者が自分で選べるようになる。

▽IBMやマイクロソフト、セールスフォースらも規格確立に乗り出す

リナックス財団が主導する国際的連携「コーヴィッド19クレデンシャルズ・イニシアティブ(Covid-19 Credentials Initiative)」のほかに、IBMやマイクロソフト、セールスフォース、オラクル、メイヨー・クリニック、非営利団体のコモンズ・プロジェクト(Commons Project)らが参加するワクチン接種済み証明制度確立運動がある。

ヴァクシネーション・クレデンシャル・イニシアティブ(Vaccination Credential Initiative)と呼ばれるその取り組みは、デジタル証明の米国標準の策定において重要な役割りを果たそうとねらっている。リナックス財団が目指す技術仕様と互換するかどうかについてはわかっていない。

ウォルマートは、ヴァクシネーション・クレデンシャル・イニシアティブが構築する標準を基盤とするアプリケーションを採用することを3月に発表している。

▽種類が多すぎればセキュリティー問題の原因に

セキュリティー会社エントラスト(Entrust)の販促責任者ジェン・マーキー氏は、それらのアプリケーションが成功するかどうかは、複数のシステムで運用できるかどうかにかかっている、と考えている。

「単一仕様の安全なデジタル認証でヒースロー空港(ロンドン)の国境警備員からマディソン・スクエア・ガーデン(ニューヨーク市)の会場案内係まで、全員が同じ情報を確認読でき、市民のプライバシーを侵害しないのが望ましい」。

あまりにも多くのソリューションを管理しようとすれば、アプリケーション間でのやりとりにセキュリティーの脆弱性が出てくる、とマーキー氏は指摘した。

▽電子メールの普及初期に似た現象に

リナックス財団のワンガー氏は、この種のアプリケーションの初期段階には電子メールの初期段階に似たものになるとみている。AOLの初期利用者らはAOLの登録利用者たちのあいだだけでメッセージを送れた状況だった。

「IBMのような閉ざされた一群によるシステムの第一波が観察される。第二波では、相互運用性のあるアプリケーションが登場するだろう。その時点では規則が確立され、その相互運用網に参加したければ各種の仕様や規定に準拠することが条件となる」とワンガー氏は話した。

▽自然淘汰で2~3に収斂へ

フューチャー・オブ・プライバシー・フォーラム(Future of Privacy Forum)のジョン・ヴェルディ政策責任者は、何が主流になるかは現時点では不透明と断ったうえで、「接触追跡や決済カードといった技術と同様に、(デジタル・パスポートも)ひとにぎりの取り組み(方式、手法、仕様)に収斂されるだろう」と予想する。

利用者らは、いくつものアプリケーションを使い分けたいとは思わない。10枚のクレジット・カードを持っていた人たちも最終的には3~4枚に減らした。それと同じことがデジタル・パスポート・アプリケーションにも起き、最終的には二つか三つに絞られる可能性が高い、とヴェルディ氏は話した。

また、エレクトロニック・プライバシー・インフォメーション・センターのバトラー氏は 「州の衛生当局が直接サポートしているアプリケーションが主流になるとは思わない」という見方を示した。

(U.S. Frontline News, Inc.社提供)

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