ロシアによるウクライナ軍事侵攻をきっかけにニッケル価格が史上最高値まで急騰しており、世界的な電気自動車(EV)への移行を脅かしている。
■世界3位の供給国
CNNによると、ロンドン金属取引所(LME)では8日、わずか数時間でニッケル価格が暴騰して前日の倍に当たる1トン=10万ドルに達し、145年のLME史上初めてニッケルの取引が停止された。価格はその後やや下がったが、まだ2007年に記録した以前の最高値(1トン=5万2000ドル)をはるかに上回っている。
ロシアのウクライナ侵攻を受けていくつかの商品が高騰しているが、ニッケルはEVに使われるリチウムイオン電池の重要な材料であるため、市場は西側の制裁によってロシアからの輸出が制限され、供給不足が生じることを恐れている。
ノルウェイのエネルギーコンサルティング会社ライスタッド・エナジー(Rystad Energy)によると、ロシアはインドネシアとフィリピンに次ぐ世界第3位のニッケル供給国で、21年には世界の生産能力の約13%を占めた。
英国の金融サービス会社ハーグリーブス・ランズダウンのシニア投資および市場アナリスト、スザンナ・ストリーター氏によると、ニッケル価格の急騰はショートスクイーズ(市場が売り持ちに傾いている時に大きく買いを仕掛ける動き)が原因である可能性があり「トレーダーがウクライナ紛争の影響を推し量ろうとする中、驚異的な商品価格の上昇が金融市場や取引所に不安の渦を巻き起こしている」と説明した。
■電池価格の大幅上昇も
ニッケル価格の上昇は、過去1年間にサプライチェーン(供給網)の混乱、工場の閉鎖、半導体の不足といった問題に取り組んできた自動車メーカーにとって新たな頭痛の種になる恐れがある。
ライスタッドのジェームス・レイ上席副社長(エネルギー金属担当)は、ニッケル価格の高騰は「かつてない」現象で、理論的には一部のEV電池のコストを3分の1引き上げる可能性があるとみている。ただし、多くの企業は長期契約によってニッケル価格を固定しているため、自動車メーカーがすぐに影響を受ける可能性は低く「長期的な影響を完全に把握する前に、ニッケル価格が最終的にどこに落ち着くかを見極める必要がある」という。
世界のEV販売は21年に急増したが、電池や車両の価格が上昇すれば、内燃エンジン車からEVへの移行ペースを維持できるか疑問が生じる。市場予想サービス会社LMCオートモーティブのグローバルパワートレイン担当責任者、アル・ベッドウェル氏は、ニッケル価格はしばらく高どまりすると予想。石油やガソリンも高騰しているため、EVへの移行を検討していた人々が簡単に思いとどまることはないかもしれないが「どの燃料を選んだとしても、個人の移動コストは増加する」と見ている。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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