米技術大手ら、様子を見ながら出社再開 ~ 出勤に消極的な従業員への対応との均衡を模索

グーグル(Google)は、ほとんどの米国内事務所勤務従業員を対象に、週3日出社のハイブリッド勤務を4月4日から開始した。CNBCによると、技術大手らは現在、RTO(return-to-office)方針の再調整を経て出社再開を本格化させるなか、遠隔労働継続を求める従業員らの要望の強まりへの対応に迫られている。

▽ガソリン価格の高騰で逆風

グーグルのRTO(職場復帰、出社再開)方針は、ほかの多くの技術大手らと類似する。同社は、ほとんどの従業員らが最終的には事務所に戻ってくることを強く希望しているが、多くの従業員は出勤にかなり消極的だ。

特に、ガソリン価格の高騰によって通勤のための長距離運転や交通渋滞が新型コロナウイルス・パンデミック前よりも悪い状況になっているため、出社再開の環境としては大きな逆風が吹いている。

技術大手らはまた、パンデミック期間中に劇的に浸透したクラウド基盤の仮想協業によって自社従業員らの生産性を落とさずに事業を成長させ、パンデミック不況下でも記録的好業績を維持した。遠隔労働でも仕事に支障が出ないことが実証された、と主張する従業員も多い。

▽従業員の半数、常勤出社が義務づけられれば辞める

そのため、多くの会社では現在、働き方の選択肢を従業員らに提示することが実質的に義務化されている。人材確保が非常に難しくなった昨今の労働市場において、従業員らがRTO方針にどのように反応するかを確認しながら最善の均衡をとらなければならないという状況に直面しているためだ。

人材派遣および人材資源コンサルティング会社ロバート・ハーフ(Robert Half)のミーガン・スラビンスキー氏によると、雇用主の3分の2は従業員たちを「常勤に近い状態」で事務所に戻したいと考えているが、従業員の半数は、それが義務づけられれば会社を辞める、と調査に答えている。

▽グーグルとマイクロソフト、30日間の「移行」期間で様子見

グーグルとマイクロソフト(Microsoft)は、事務所勤務の従業員らを出勤させるために30日間の「移行」期間を設けるというRTO方針を打ち出している。

グーグルの場合、オミクロン株の感染急増前には、12ヵ月を上限に従業員が遠隔労働を希望し申請すれば考慮するという方針だったが、現在では、勤務地変更や恒久的遠隔労働の申請の85%を認めるほど方針を軟化させた。

同社の検索および広告および商業担当上席副社長プラバカール・ラーガヴァン氏は、「3-2ハイブリッド(3日出勤2日遠隔)では従業員の忠誠心を得られないことはわかっている」と従業員らへのメモのなかで述べた。

▽グーグル、本社内設備の特典を復活

グーグルはそこで、シリコン・バレー本社の再開にともなって、職場の特典も復活させる方針を従業員らに告知した。本社の施設では、フィットネス・センターや無料の食事、ラウンジ、ゲーム部屋群、マッサージ・サービスの提供も再開される。

ひと昔前は、職場のそういった特典は人材獲得および維持の重要な要素だったが、パンデミックによってそれが変わり、現在では、働き方の柔軟性がもっとも重視されるようになった。したがって、特典の再開や拡充が出勤をどれほど奨励するかは不透明だ。

▽従業員の価値観、報酬や特典から柔軟性に移行

技術大手らの様子見やRTO方針軟化の背景には、人材獲得競争の激化や人材維持の難しさがある。米国では昨今、パンデミックを受けて人生や働き方を見直す人が急増し、「大量退職」という社会現象も起きている。そのため、米技術業界では従業員の労働満足度がこれまで以上に重要になっている。

したがって、出社を義務づけられると転職するという考えの従業員が非常に増えたことで、大手らは長期的ハイブリッド労働を余儀なく受け入れている。

そういった動きは新興企業にとって有利に働く、とスラビンスキー氏はみている。報酬では大手に太刀打ちできない新興企業らは、働き方に大きな柔軟性を取り入れた体制を提示することで、人材の獲得と維持を強化している、と同氏は指摘する。

▽柔軟勤務を提示して反応をみる姿勢

かたや、恒久的遠隔労働方針を2020年時点で早々に打ち出していたツイッター(Twitter)では、2021年末にCEOに就任したパラーグ・アグラワル氏は、分散労働について「非常に難しい」と指摘し、「同じ職場空間で一緒に働くことが生き生きとした企業文化を醸成する」ため、できるだけ多くの従業員が事務所に戻ってくることを強く望んでいる、と話した。

一方、アップル(Apple)は、月曜日と火曜日、そして木曜日を出勤日に指定している。多くの会社では、従業員や部署の都合に応じて柔軟に対応できるよう出勤曜日を固定していないところが多い。

アップルのティム・クックCEOは、最終的にはハイブリッド勤務を最小限にしてできるだけ多くの従業員が事務所に戻ることが望ましいと考えている。しかし、現時点でそれを強要すれば人材を失うため、当面はハイブリッド労働を基本的勤務体制とする。

アマゾン(Amazon)では、しばらく様子見してからRTO方針を最終化する姿勢で、事務所再開日をいまだに発表していない。

(Gaean International Strategies, llc社提供)

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