ウォール・ストリート・ジャーナルによると、サイバー攻撃に対する安全を保障する保険が人気を博してきたが、保険業界は、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて懸念を強めている。
▽ニュージャージーの判決でサイバー保険に激震
サイバー攻撃を対象とした保険商品の売上高は、過去1年間で2倍以上に伸び、150億ドルに達した。サイバー保険は一般に、ランサムウェアやウイルス侵入による損害を補償する。
たいていの損害保険と同様に、サイバー保険は、ほとんどの戦争被害を免責事項(保険適用外)に指定している。国家機関や国策として活動する集団によるサイバー攻撃を除外するものだ。
しかし、ニュージャージー州の判事はその免責事項に存在する「穴」を2021年に指摘し、サイバー攻撃が一般的な戦争行為に含まれないという判決を下した。保険会社らはそれを受けて、今後販売する商品の免責事項の文言を厳密にしようとしている。
▽ウクライナ侵攻以降、保険金請求が急増
一方、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、既存の保険加入会社からサイバー攻撃被害の保険金請求が増え、保険会社らが多大な損失を計上する懸念も高まっている。
これまでのところ、ウクライナ侵攻に関係した大規模サイバー攻撃はみられないが、両側の自主的なハッキング集団らがデジタル戦線に混乱をもたらしているのは事実だ。
▽メルクが受けたサイバー攻撃が起点に
ニュージャージー州の判決は、製薬会社のメルク(Merck)が2017年のサイバー攻撃で受けた14億ドルの損害に対して保険を請求した件だった。約30社の保険会社が、戦争行為を理由にメルクの請求を却下した。
その攻撃は「ノットペティヤ(NotPetya)」と呼ばれ、もともとウクライナの会計事務所を標的としたものが、世界中の接続網に拡散した。ホワイトハウスは、それをロシア軍部によるものと説明した。
▽判事、保険会社の矛盾を指摘
同訴訟の判事は、戦争および敵対的行為が免責事項に含まれているが、サイバー攻撃は過去何年にもわたって増加しているにもかかわらず戦争免責事項に含まれていなかったと指摘し、保険金の支払いを保険会社らに命じた。
「除外条項が伝統的な形態の戦争行為にのみ適用されると予想するあらゆる権利がメルクにはあった」と、判事は判決で述べた。
その判決後、一部の保険会社らはメルクと和解したが、ほかの保険会社らは控訴している。控訴に際して米国損害保険協会(American Property Casualty InsuranceAssociation)は同判決について、「サイバー・リスクを引き受ける保険市場の能力を低下させる」と見解を述べた。
▽保険会社の対応策として二つの可能性
保険業界が今後の問題を防ぐための手立てとしては、おもに二つの対応が考えられる。
一つは、サイバー・リスクの高まりに対応して、引き受けに際して厳密な審査を行うことだ。もう一つは、これまで長年使ってきた戦争行為除外条項の文言を変えることだ。ただ、免責対象をあまりにも広げれば保険購入会社が減るため、保険業界としては顧客が逃げないよう注意が必要だ。
サイバー保険は単独商品として購入することもできれば、ほかの保険商品に組み込むこともできる。チャブ(Chubb)やAIG(American International Group)、トラヴェラーズ(Travelers)がそういった業界大手だ。ランサムウェア攻撃の増加によって、この種の保険商品は以前ほど保険会社に利益をもたらさなくなっている。
(Gaean International Strategies, llc社提供)
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