部品は購入か自社生産か~自動車メーカー、外部依存を再考

電気自動車(EV)大手テスラに対抗する自動車メーカーは、EVの部品をサプライヤーから購入すべきか自社で製造すべきかという新たな課題に直面している。

■テスラの成功と供給網混乱

ロイター通信によると、グローバル自動車メーカーの大部分は、過去何十年にもわたって重要な部品やソフトウェアの作製、人件費の安い国における広大な製造ネットワークの管理を外部の業者に依存してきた。社内での製造を拡大し垂直統合を進めることは大きな変化となるが、一部の確立された自動車メーカーは、独自の技術を頼みとするテスラの成功や新型コロナウイルス禍とそれに伴うサプライチェーンの混乱による経済的損害などを受けて、長年の戦略を見直し始めている。

フォードのジム・ファーリーCEOは「最も重要なのは垂直統合。(創業者)ヘンリー・フォードは正しかった」と述べている。ヘンリー・フォード氏は、20世紀初頭にミシガン州の複合工場で、鉄鉱石などの原材料から最初の大量生産車「モデルT」を製造していた。

フォルクスワーゲン(VW)、ゼネラル・モーターズ(GM)、メルセデス・ベンツなども垂直統合の戦略を進めており、メルセデスは2021年、英国の電気モーター技術会社ヤサ(YASA)を買収。ヤサの技術に基づくモーターを製造するためベルリン近郊の工場を改修した。またこの3月には、米国で生産するEV用の電池パックを製造するためアラバマ州に新工場を建設し、車載電池大手エンビジョンAESCと提携して米国で電池を製造すると発表した。

■結論はまだ先か

市場調査ガイドハウス・インサイツのサム・アブエルサミド氏によると、自動車におけるメーカー所有の知的財産の割合は、1970年代の90%から2010年代には50%に低下した。これは、EVの先駆者テスラの垂直統合で生産された車が消費者に受け入れられた時期、多くの自動車メーカーには独自のEVプラットフォーム、パワートレイン、電池パックを開発するための専門知識が社内になかったことを示している。

また、自動車メーカーは最近になって垂直統合戦略を発表しているが、新車の納期を守りながら戦略を進められるかは別問題で、自動車部品大手アプティブのケビン・クラークCEOは「特にソフトウェアなどの分野では、インソーシングと垂直統合について多くの説明があるが、私たちが取り引きするメーカーはいずれもソフトウェアの開発に苦労している」と指摘する。

ボストン・コンサルティング・グループのシニアアドバイザー、ザビエ・モスケ氏は、社内生産のコストと複雑さを回避するため、多くのメーカーは依然としてEV関連技術の購入を好むと見ており「どちらのやり方が成功するかを判断するには数年かかるだろう」と話している。

また、自動車需要に占めるEVの比率は依然として低く、EVの製造を一気に完全内製化することをためらうメーカーも多い。IHSマークイットによると、現在電気モーターを完全自社生産しているのはテスラ、ルシッド・グループ、中国BYDの3社だけで、 現代自動車とルノー・日産・三菱連合がそれに近い状態にある。

(U.S. Frontline News, Inc.社提供)

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

最近のニュース速報

アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. アメリカ在住者で子どもがいる方なら「イマージョンプログラム」という言葉を聞いたことがあるか...
  2. 2024年2月9日

    劣化する命、育つ命
    フローレンス 誰もが年を取る。アンチエイジングに積極的に取り組まれている方はそれなりの成果が...
  3. 長さ8キロ、幅1キロの面積を持つミグアシャ国立公園は、脊椎動物の化石が埋まった岩層を保護するために...
  4. 本稿は、特に日系企業で1年を通して米国に滞在する駐在員が連邦税務申告書「Form 1040...
  5. 私たちは習慣や文化の違いから思わぬトラブルに巻き込まれることがあり、当事務所も多種多様なお...
  6. カナダの大西洋側、ニューファンドランド島の北端に位置するランス·オー·メドー国定史跡は、ヴァイキン...
  7. 2023年12月8日

    アドベンチャー
    山の中の野花 今、私たちは歴史上経験したことのないチャレンジに遭遇している。一つは地球温暖化...
  8. 2023年12月6日

    再度、留学のススメ
    名古屋駅でホストファミリーと涙の別れ(写真提供:名古屋市) 以前に、たとえ短期であっても海外...
ページ上部へ戻る