中国製人工知能モデルがシリコン・バレーを激震させる 〜 ディープシークの台頭が米技術大手らに突きつけること

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、中国の人工知能新興企業ディープシークが最先端の人工知能チップを使えないにもかかわらず、米人工知能大手らの大規模言語モデル群(large language models=LLMs)と同等のモデル「R1」を構築したことでシリコン・バレーに激震が走っている。

▽巨額投資の必要性を疑問視させる

LLMs人気番づけでは、R1モデルが性能面で世界上位10に急浮上した。ワシントンDCはこれまで、中国の人工知能技術開発を遅らせるために、高性能の人工知能チップや半導体製造装置の対中輸出制限を強化してきたが、その効果がなかったことが明示された格好だ。

シリコン・バレーの著名ベンチャー・キャピタリストであるマーク・アンドリーセン氏は1月24日、複雑な問題解決に特化したモデルと位置づけられるディープシーク(DeepSeek)R1について、「私がこれまで見たなかでもっともすばらしく印象的な革新の一つだ」とエックスに投稿した。

ディープシークの突然の台頭と躍進は、米技術大手らによる最先端のチップやそのほかの人工知能基幹設備への巨額投資が正当化されるのかどうかという懸念を噴出させている。米株式市場は1月27日、チップ銘柄を中心に技術大手らの株が売られ、7%以上も急落した。エヌビディア株は15%も暴落し、アーム株も10%弱の暴落を強いられた。

▽時の人に躍り出た梁文峰氏

R1の開発を主導したのは、中国のヘッジ・ファンド・マネージャーである梁文峰(リャン・ウェンフォン)氏だ。梁氏は、ヘッジ・ファンド会社ハイ・フライヤー(High-Flyer)を共同創設したのち、ハイ・フライヤーによる単独投資でディープシークを立ち上げた。

専門家らによると、ディープシークの技術はオープンAIやグーグルの技術にまだおよばないが、必要とする人工知能チップの数が少なくて済むほか、高性能チップでなくとも稼働し、さらには、米国の人工知能開発者たちがが必須と考える訓練段階を省略したにもかかわらず、米人工知能大手らのモデル群に匹敵する性能を実現した。

ディープシークによると、R1の最新モデルの訓練費用は560万ドルだ。米生成人工知能新興大手アンスローピックのダリオ・アモデイCEOがモデル構築費用として2024年に示した1億ドルから10億ドルという巨額とくらべると、ディープシークのモデル訓練コストがいかに安いかがわかる。

▽中共による検閲という懸念材料

サンフランシスコ拠点の人工知能ハードウェア新興企業ポジトロン(Positron)の共同設立者であるバレット・ウッドサイド氏は、自身の同僚がディープシークR1に「熱狂」していると話す。ディープシークは、オープン・ソース・モデルであるため、人工知能モデルを支えるソフトウェア・コードを無料で使える。

ただ、ディープシークのモデルには中国ならではの深刻な問題がある。同社が2024年12月に公開した最新の旗艦モデル「V3」の利用者らは、中国と習近平国家主席に関する微妙な政治的質問に対しV3が回答を拒否することを経験済みだ。V3は、場合によっては、北京の政治宣伝に沿った回答を提示する。

ディープシークのモデル群が中国共産党に検閲された内容しか回答しないのであれば、西側市場で成功を維持する可能性はないが、R1ではその問題はまだ表面化していない。

▽性能評価でクロードやグロックを抑える

いずれにせよ、R1とV3は、欧米の主要モデル群を上回るか同等の性能を発揮することは事実だ。R1とV3は1月25日、チャットボット・アリーナ(Chatbot Arena)で上位10に入賞した。チャットボット・アリーナは、生成人工知能チャットボットの性能を評価するカリフォルニア大学バークリー校の研究者らが主催するプラットフォームだ。

首位はグーグルのジェミナイ(Gemini)モデルだった。ディープシークは、アンスローピックのクロード(Claude)と、イーロン・マスク氏のエックスエイアイが開発したグロック(Grok)を抑えた。

また、ディープシークのモデル群は、数学専門家たちによる微調整といった最適化の過程を省略し、強化学習(基本的に指示された試行錯誤)に重点を置いているにもかかわらず、オープンAIの推論モデル「オーワン(o1)」に匹敵する性能を示した。

▽米新興企業、クロードからディープシークに乗り換え

ディープシークの主要モデル群は無料だが、独自のアプリケーションを同社のモデルと統合する利用会社らに課金している。たとえば、顧客の問い合わせに人工知能が回答する技術を使いたい会社がそれに該当する。

生成人工知能を使って投資利得を予想するソリューションやサービスを提供するシリコン・バレー新興企業の共同設立者であるアンソニー・プー氏は、もともとアンスローピックのクロードを使っていたが、ディープシークのモデルを試用したのち、クロードからディープシークに乗り換えた。約4分の1のコストでほぼ同等の性能を使えるからだ。

▽締めつけられれば工夫する企業努力の一例か

ディープシークは、技術仕様報告書のなかで、V3モデルの訓練に2000以上のエヌビディア製チップ集積システムを使ったと説明している。創設者の梁氏は、ハイ・フライヤーの投資事業で得た利益をエヌビディア製チップ群の調達に投じたことでそれを実現した。米バイデン前政権による対中先進技術輸出制限強化が本格化する前のことだ。

オープンAIの元幹部であるザック・キャース氏は、米政府による制裁にもかかわらずディープシークが劇的に進歩したことについて、「資源の制約が創造性を刺激することはよくある」と述べた。

(Gaean International Strategies, llc社提供)

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