連邦通商代表部(USTR)はこの2月、中国の船舶が米国の港に入る際に多額の入港料金を課す措置を提案したが、米国内のさまざまなビジネスから強い反対の声が上がっている。
◇入港のたびに50万~150万ドル
ウォールストリート・ジャーナルによると、この課金案は、数十年にわたって海運大国として君臨してきた中国への対抗を目的としており、米国の海運業強化を目指して検討されている大統領令の草案に盛り込まれた課税案と似ている。今回の課金案は、バイデン前政権下で1年前に始まった調査を受けた動きで、ワシントンでは珍しい超党派の合意例だ。提案によると、運送業者のフリート(船団)に占める中国製船舶の割合に応じて、中国製の船が入港するたびに50万~150万ドルを船会社に請求し、船会社が中国の造船所に発注している船舶の割合に応じて追加料金も課される。
◇運賃上昇は必至
ワシントンでは3月下旬、2日間にわたる公聴会で約300の企業、業界団体、個人がこの提案に関する意見を提出したが、輸入/輸出業者、小売業者、船会社、農業団体、商品販売業者、物流業者などほぼ全てが課金案に反対した。大方の意見は、この手数料が制定されれば、米港湾への船会社の寄港回数が減り、運賃が上昇し、輸送が遅れるという内容だった。
全米小売業協会(NRF)のジョナサン・ゴールド副会長(供給網担当)は代表部にあてた書簡で「荷主がサプライチェーン(供給網)における課題と圧力に直面し続けている時期に、コンテナ1個当たり数百ドルのコスト増をもたらすことになる」と警告した。
USTRの計画には、7年以内に輸出に使われる米国籍船の比率を現在の1%未満から15%に拡大し、貨物の5%を米国製の船舶で輸送するという目標が含まれている。しかし米国には現在、世界貿易に使える大型貨物船を建造できる造船所はない。
世界第5位のコンテナ船会社であるドイツのハパックロイド(Hapag-Lloyd)によると、大型コンテナ船の建造能力を持っている国は中国と韓国だけで「米国や他国にその穴は埋められないし、できたとしても中国で船を作る方が圧倒的に安く、半分以下に収まる」(広報担当者)という。
◇年間200億ドルの追加コスト?
世界最大のコンテナ船会社メディテラニアン・シッピング(MSC、本社スイス)のソーレン・トフトCEOは、提案されている港湾使用料は海運業界にとって年間約200億ドル(環太平洋航路などの海上輸送ではコンテナ1個当たり平均600~800ドル)の追加コストになると見ている。
アテネを拠点に176隻の船舶を運航するナビオス・グループ(Navios Group)のアンジェリキ・フランゴウCEOは「追加料金の負担は船舶の運航コストとして用船契約に転嫁され、船舶に積まれる全ての貨物の輸送コストに上乗せされ、そのコストは消費者が負担することになる」と指摘。米西海岸の港湾労働者を代表する国際港湾倉庫労組(ILWU)は、米国外で荷揚げしトラック輸送でメキシコやカナダとの国境を越える例が増えると見ており、国内の荷揚げ量が減れば、港湾労働者の雇用が失われる可能性があると話す。
全米農業輸送連合(ATC)も「この料金で米国の農産物輸出が割高になる危険性がある」と警告している。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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