米国の製造業復活のカギをにぎるのは小型で賢いロボット 〜 中小企業でも導入可能、国内回帰が静かに進展

製造大国として米国がその地位を取り戻すというドナルド・トランプ大統領が唱える製造業復興の実現は、小型で高柔軟性の賢いロボットがカギをにぎっているとみられる。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、実際、中小製造会社でもロボットを導入できるようになっており、コスト低下や技術進化によってその傾向は強まっている。本稿では、その最前線について前編と後編に分けて解説する。

▽労働力不足の解決策

産業用ロボットはかつて、大企業だけが使えるぜいたく品だったが、最近では柔軟性の高い小型ロボットや従業員らに混ざって作業する協働ロボット(コーボット)が米国内の大小さまざまの製造会社らで使われるようになっている。もはやぜいたく品ではなく、米国の製造業を回復させるうえで必需品とみられている。

物理的な製品を製造する米国企業の数は2014年に最低数となり、その後ゆっくりと回復してきた。しかし、熟練労働者が高齢化し、若者の労働力ではその減少分を埋めることはできない。したがって、米製造業界は慢性的な労働力不足という課題に直面している。それを解消するには、大量のロボットを現場に導入する必要がある。

▽先進ロボットがリショアリングを可能に

世界最大の製造大国である中国は製造業界の自動化に注力し、産業用ロボットの数において数年前から世界各国をしのいでいる。中国では現在、200万台以上の産業ロボットが稼働しており、主要国らのロボット合計数を上回っている。

一方、製造業務の大部分をこれまで外国に外注してきた米国は最近、いわゆるリショアリング(国内に引き戻すこと)を進めている。トランプ大統領から国産化の圧力をさんざん受けているアップルも先日、台湾積体電路製造(TSMC)のアリゾナ工場で生産されたモバイル・チップを出荷した。アップルにとっては初めての国産チップだ。

同工場は、ほかの先進的工場と同様に高度に自動化されている。先進ロボット群を大量に配備することで、かぎられた労働力で生産需要に対応できることを示す事例だ。

▽人工知能景気による自動化技術の普及が国産化に追い風

ただ、自動化技術に過剰に投資することには危険性もともなう。不況になり需要が縮小した時点で、設備投資が重くのしかかる可能性があるためだ。したがって、高度に自動化された工場の経済性はこれから何年にもわたって試されることになる。

また、ロボットを導入すれば、それを操作および監督する人間も必要になる。そういった人材は多くないため、人材養成が必要だが、それには時間がかかる。

いずれにせよ、少なくとも現時点では、人工知能景気によって刺激された工業製品への需要が、自動化技術の普及に追い風をもたらしていることは事実だ。

▽オハイオの中小製造業者、協働ロボット導入で生産性を4倍に

「自動化は間違いなくリショアリングのカギをにぎっている」と、金属製品製造会社レイマス(Raymath、オハイオ州拠点)のグレッグ・ルファーヴCEOは話す。2019年にレイマスを買い取った同氏によると、その時点で創業40年近かった同社には自動化技術が皆無だった。それから2年後、同氏は比較的安価でプログラムしやすい協働ロボットを導入し始め、いまでは13台を使っている。

同社の工場従業員一人あたりの生産性は、それまでの最大4倍に向上した。同社の売上高は3倍に伸び、従業員数も約130人から145人に増えた。かつてはすべての作業を人間がこなしていたが、いまではほとんどの作業でロボットを監督しながら協業しているという。

協働ロボットは、過去10年間に使い勝手が大幅に向上しており、単純なタブレット画面操作によって具体的な動作の流れを遂行するよう指示できるようになっている。

▽検知器搭載ロボットが物流から製造業に波及

ルファーヴ氏の会社で使われているような溶接ロボットを提供する製造業務協働ロボット開発会社は米国内に数十社ほどある。そのなかのおもな一社であるヴェクティス・オートメーション(Vectis Automation、コロラド州ラヴランド拠点)は、2019年に設立され、その種のロボットを提供し始めた早期の米企業の一つだ。

ルファーヴ氏の工場では、インディアナ州拠点のTHGオートメーション(THG Automation)の機械を使っている。

製造業務向けに専門化された協働ロボットは、ロボティクス業界の最近の傾向を反映している。検知器の搭載によって作業員らの安全を確保するよう設計されている点がその代表的傾向だ。

そういったロボットはこれま、アマゾンをはじめ配送センターでの活用が多かったが、最近になって製造業にも導入されるようになった。

▽国産化に動く米企業たちから引き合いが増える

量産にかけては中国に勝る製造力は存在せず、大口の製造発注は引き続き中国に流れる。しかし、高度の自動化を求める米国内製造業者らは、比較的小規模で納期の短い契約で競争している。そのため、中国に依存する必要がない製造業を国内展開している。

ペンシルベニア州のキャルテック・マニュファクチャリング(Caltech Manufacturing)のジャック・キャレンダー社長は、これまで米国での製造を検討したこともなかったような会社たちから重要部品の国内生産について問い合わせを受けるようになったと話している。

同社が引き受けているのは、医療機器や輸送機のための金属部品だ。いずれも中国産より高コストながら、国外での製造にともなう困難を避けようとする顧客から選ばれるようになった、とキャレンダー氏は説明している。

同社は約80人の従業員を擁し、過去3年間に6台の溶接ロボットのほか、さまざまの自動化システムを追加導入した。その結果、従業員一人あたりの生産性は2~4倍に伸び、従業員数も増やすことができたという。

そのあいだにもロボット自体も機能が向上した。いまでは触感検知器を搭載し、正しい部位を溶接しているかどうかを自己確認する能力を持つ機種もある。キャレンダー氏は現在、機械視認(コンピューター・ヴィジョン)を搭載したシステムの導入も検討している。

▽作業内容を自律学習するロボットの開発に取り組むダイナ・ロボティクス

最近では、製造業向けロボットの能力をさらに高めようとする動きも米国内で活発だ。そういった動きはこれまで米国内では皆無だった。

カリフォルニア州拠点のダイナ・ロボティクス(Dyna Robotics)は、導入業者がロボットをプログラムしなくてもロボットが作業を自力学習できるようにする製造業向けロボットのための「基盤モデル」を開発している、同社は、エヌビディアやアマゾンを含む米技術大手らから総額1億2000万ドルの巨額投資を獲得したことを8月に発表した。

ダイナ・ロボティクスのリンドン・ガオCEOは、同技術を2〜3年以内に実用化することをねらっているが、自律学習するロボットの信頼性を製造現場での実用に適した水準に高めることは現時点では非常に困難であり、2〜3年以上を要する可能性が高い。

とはいえ、その種のロボットが実現する暁には、人口の多い国ではなく高性能ロボットの多い国が製造業界の競争で勝つことになるだろう。

(Gaean International Strategies, llc社提供)

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