米大学、日本の切り紙を最先端研究に 〜 ソーラー・パネルの角度調整に応用

 ミシガン大学の研究班は、日本伝統の切り紙にヒントを得た新しいソーラー・トラッキング(太陽光追跡)システムを開発した。

 クリーンテクニカ誌によると、太陽の位置を追跡してソーラー・パネルの角度を調節するトラッカーを使用すれば、ソーラー・パネルの出力を最大30〜40%も高めることができる。

 しかし、トラッカーの普及率は低いのが現状だ。その理由は、トラッカーが場所を取るうえ、傾いた屋根への設置費用が高いことにある。

 国立再生エネルギー研究所によると、住宅向けソーラー・パネルのほとんどが傾斜屋根に設置されている。従来型のトラッキング・システムの重量を支えるには、相当な強化が必要だ。

 ミシガン大学の研究者が考案したシステムは、短冊状の細長いソーラー・パネルに切り込みを入れ、パネルの両端を引っ張ることで立体的な網目を作る。この引っ張り具合を加減することで、立体部分の角度を約1度の精度で調整できる。これまでのトラッカーに比べ、低コスト、軽量、そして場所を取らないという大きな利点がある。

 その研究成果は、専門誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に発表された。

 研究班は、アリゾナ州の夏至を想定して模擬実験を行った。その結果、出力量は固定パネルに比べて36%増となり、「従来型の一軸(単軸)トラッカーと同等」の効果が確認された。

 複雑な立体構造もいくつか試してみたが、もっともシンプルなパターンが最大の効果を示したという。

 切り紙を模したソーラー・パネルの設計は、個々のパネルがほかのパネルに影を落とすことがなく、有効露出面積が犠牲にされない。

 このパネルは軽量であるため、航空用途に適している可能性もある。

 また、ソーラー・パネルの普及にとっては美観も重要であるため、切り紙をヒントにした外観設計は、その点でも魅力があるかもしれない。

 ただ、現時点では、同研究は概念段階にすぎない。伸縮を繰り返したり温度が変化したりする状況においてどの程度耐久性があるのか、実際にどのように屋根上に設置するのかなど、実用化までにはいくつか解決しなければならない課題はある。

 長期にわたって伸縮を繰り返す影響については、研究者が発表した論文でも言及されており、切り込みの形状を最適化してその部分にかかる負荷を抑えることで、劣化の度合いを大幅に下げることが可能だと説明された。

 今回の研究では、広い温度範囲で優れた特性を示す樹脂フィルムのカプトンを基盤として使われたが、長期にわたる耐久性を追求するためにほかの素材も研究されている。

 切り紙の伝統芸術は、アリゾナ州立大学の電池研究でも応用されている。その研究では、柔軟性のある電池をオリジナルの大きさの150%以上に伸ばして、なおも機能が維持されることが証明された。それをスマート腕時計の伸縮バンドに縫い付けて、時計を動作させることができた。

 また、コーネル大学では、ナノ技術の世界で切り紙の概念を用いて、1原子の厚さのグラフェン・シートを開発している。

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