シリーズ世界へ! YOLO④ タイ〜花と微笑みの国 後編
文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)
- 2011年7月20日
この国を嫌いだという外国人に、私は会ったことがない。アジアの超成長都市ならではのエネルギーと、心優しい人々、豊かな自然と食文化。タイの魅力は尽きない。中でも、旧正月ソンクラーン(4月13~15日)前後は、タイの人々が伝統を慈しみ、祈りを捧げる特別な時期だ。
今年4月、タイ国政府観光庁の招きで、北米のトラベルライター約20人の一団に参加した私は、「微笑みの国」の正月を満喫した。(*注:情報は掲載誌発行時点のものです)
絢爛極彩色に
立ち眩む
飛行機を乗り継いでバンコクに着き、市内のホテルにチェックインした時は、午前3時を過ぎていた。「王宮へは朝8時に出発します」。ガイドの声にぎょっとする。4月のバンコクは、日中の気温が30度を超える。タイ随一の観光名所をじっくり見たいなら、日差しと大混雑を避けて朝一番に、ということらしい。
約22万平方メートルの王宮は、現在も続くタイ王室(チャクリー王朝)の初代王、ラマ1世が建造した。先代のラマ8世までが住んでいた、いわば国家の心臓部だ。確かに、私たち一行が着いた時には、開門して間もないのに、団体客がすでに行列を成していた。
見どころは、敷地の約4分の1を占める「ワット・プラケオ」(別名エメラルド寺院)。仏教国タイで最も重要な寺院だ。王宮にあるからというだけでなく、王朝のシンボルで、翡翠を彫って作られたエメラルド色の仏陀像が祀られているからだ。18世紀半ばに、首都アユタヤがビルマ軍に攻め入られて陥落したが、この仏陀像は戦火と略奪を逃れ、新都バンコクへたどり着いたとされている。
黄金の仏塔を中心に、林立する仏堂の装飾は、5色の石を基調としている。緑(エメラルド)、白(ダイヤ)、青(ブルーサファイア)、赤(ルビー)、黄(イエローサファイア)。特にイエローサファイアは、タイにしかない珍しいものらしい。金箔やガラス、タイルによるモザイクも、ふんだんに使われている。
360度から照射される、極彩色のまばゆさ。時差ぼけの目を覚ますのに、これ以上ふさわしい場所もないだろう。回廊を回り、建物の角を曲がるごとに、大きく口を開けた鬼や猿の神、魅惑的な天女の像が、まるで飛び出す絵本を見ているかのように現れる。どこから何を撮っても、「絵になる」場所だ。
私たちの一行には、旅慣れたトラベルライターも、ハリウッドのセレブを撮ることが多いフォトグラファーもいたが、ジュエリーショップのケースを全部開けて見なければ気が済まない宝石好きの女の子のように、誰もが嬉々としてカメラのシャッターを押し続けた。
「Pictures don’t do it justice」(写真ではこの素晴らしさを十分に表せない)。一人がつぶやいたのに、皆が頷いた。
ガイドのティッピーさんの話によれば、歴代の王が増改築を重ね、50年ごとに大規模な修復を行ってきた。最近は石や塗料などの素材が不足し、「できる時にやっている」そうだが、色あせた物はなく、古さを感じさせない。
エメラルド仏陀を祀る本堂とその前では、外国人観光客に混じって、タイの人たちが熱心に祈っていた。タイの人は、寺院にお参りに行く際には、必ずお供え物を持ってくる。庶民の場合は、食べ物が一般的。ゆで卵(生命の象徴らしい)を手にしている人もいた。参拝者は、仏像に金箔を張り、仏前の火に油を注ぎ足し(命の火を燃やし続けるという意味)、花を手向ける。
2時間は歩いただろうか。カナダから来たライターが、熱中症を訴えた。バンコクで長く英語ガイドをしているティッピーさんが、「王宮ツアーの途中で、必ず一人か二人は具合が悪くなる。欧米人は暑さに弱いのかしら」と聞いてきた。そんな通説はないはずだから、暑さというより、余りのまばゆさに当てられてしまうのかも知れない。
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